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一日の光ともしく山茶花の昼散る花びら溝にたまりぬ |
山茶花の散り重なりて花びらのくれないの褪す昼の光に |
山茶花の花を動かす小鳥来て直ぐ立ちゆけりま昼間の日に |
寒さやや緩みて日の照る山茶花に小鳥飛びきて花を動かす |
ゆるゆるとペダルを踏みて帰りたる夕方熱き甘酒を飲む |
帰り来て一とき呼吸の収まれば机の前に甘酒を飲む |
胸底のからき呼吸の静まりて吹きさましては甘酒を飲む |
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土本
綾子 西宮 |
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年の瀬となれば今年も包丁を研ぎに来てくるる老いし棟梁 |
この人のありて五十年保つ家いくたびか増築修理かさねて |
職退きて釣りざんまいの日々という息子二人になべて委ねて |
学童の登下校を目守り道に立つ人はすこやかに老いて朗らに |
近隣の子らにおじいちゃんと慕われて竹とんぼ竹馬を教うる姿 |
年末の仕事にガラス戸十二枚ことしも洗い得たるよろこび |
町並のはたて茜の色に染む明日元旦の空も晴れなん |
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高 槻 集
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安藤
治子
堺 |
写実の中にかく情感の漲れり永井荷風作「ふらんす物語」 |
吾が知れる巴里と百年を隔つれど生き生き顕ち来荷風の筆に |
わが孫の今親しむは仏国青年と聞きて取り出づヨーロッパの地図 |
夥しき国々が境接するを思えり島国に呑気に生きて |
神原
伸子
堺 |
さすりてくれと微かな祖母の声聞きて泣きつつ摩りし臨終の時 |
魚さばきうりたる大き祖母の手は父母知らぬ我を育てくれし手 |
報恩講とて七つの我の手を引きて御寺廻りし祖母若かりき |
安田
恵美
堺 |
新聞のきたらぬ朝の食卓に夫は時間をもてあますらし |
道端の小さき畝に大根の十本ほどが見られて育つ |
夕光を秀先に残し三本のあけぼの杉は錆色に立つ |
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三月号 作品より
(五十音に順次掲載) |
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笠井
千枝
伊勢 |
ひこばえの末枯るる畦に立つ幟しめ縄作りの里を示しぬ |
わが窓より見ゆる高層マンションの友の住む階早く灯れる |
梶野
靖子
大阪 |
戸を繰れば目に入る庭の楓二木日々くれないの深まりきたる |
わが庭の楓の落葉とりどりの色の混じりて掃くをためらう |
角野
千恵
神戸 |
三月の末にて雇い止めにするを派遣社員に子は告げたらし |
いや
もおー 二歳間近き曾孫(ひいまご)よいかなる場所でおぼえし言ぞ |
川中
徳昭
宮崎 |
亡き祖母が坐っていると妹の夜中の電話にわが立ちつくす |
吾より外に看とるものなき妹はレビー小体型認知症噫 |
葛原
郁子
名張 |
専修寺寺内町を案内され改めて知る法主さまよ猊下様よと |
五十億を下らぬ平成の大修理御影堂の雅びを仰ぐ堂内 |
忽那
哲
松山 |
居眠りより覚めて居場所を確かむるその束の間のまだるき現 |
吾にとりて昨夜の冷えは有り難し石鎚を見にいそいそと出づ |
小泉
和子
豊中 |
群れ立てるメタセコイアに入日差し火炎光背思わする秋 |
スムーズにあらぬ起ち居にわがあぐる声のみにして音なき一人 |
許斐
眞知子
徳島 |
小鳴門橋の急なる坂を自転車に遍路姿の若者のぼる |
白波立つ向こうは明石の街並か靄のかかりて蜃気楼の如し |
坂本
登希夫
高知 |
老いづきて子にひきとられゆきたりし寿栄さんの家壊されにけり |
従軍の六年十月を生還の九十五が町史編さん委員となる |
白杉
みすき
大阪 |
栴檀の散り残りたる葉の間黄に色づける小さき実の見ゆ |
野道ゆく体操帽の園児たち声を限りに電車に手を振る |
鈴木
和子
赤穂 |
新しき年迎えんと今日磨く窓のガラスのとどかぬところ |
トタン屋根の端に寄りくる霜解けの水飲む鴨の淑やかにして |
高見
百合子
美作 |
柚子みそを煮詰むる厨甘酸ゆきにおいのこもる夕べとなりぬ |
霧晴るる東の空に伯耆富士見えて頂の雪きらきらし |
辻
宏子
大阪 |
入院せる嫁に代わりて吾よりも手際よく孫は炊ぎごとする |
夫の忌の過ぎて寂しさ深まりぬ師走半ばの月かげ淡く |
津萩
千津子
神戸 |
日照の乏しき家に落着かず日当り求め犬と歩けり |
動くものは池のさざ波ばかりなり眠る家鴨に冬の日の射す |
鶴亀
佐知子
赤穂 |
荷物篭とサドルみじめに剥がれたり塵埃置場のわが自転車は |
孫桃子パワーを送るとFAXに自らの手形押せるが届く |
戸田
栄子
岸和田 |
控えめにおせちも少なくお雑煮をひっそりと食ぶ喪中の正月 |
幸せが一杯の妹逝き苦労多き吾生きなんと一人空仰ぐ |
増田
照美
神戸 |
雨のあと嘴太鴉はてっぺんの黄の枇杷ひとつくわえてさりぬ |
縦長の大きカンバス突き抜けてコローの木々の鬱蒼と立つ |
松田
徳子
生駒 |
日溜りの椅子に坐りて食む人の背を押して乞う鹿なれなれし |
真青なる空に聳ゆる大寺の鴟尾は黄金の光かえしぬ |
安井
忠子
四條畷 |
温暖化は米に空洞つくるらし脱穀により粉になると言う |
夜を襲う肩の痛みにありなれて昼の電車に我は寝すごす |
山口
聰子
神戸 |
鎧戸はかそけき音にふるえおり壁に蔦はう古き洋館 |
昼食のホテルの窓は一瞬に真白き靄が景色をかくす |
湯川
瑞枝
奈良 |
仏足跡の大き形をなぞりみる陽に温もれる石のおもてを |
念仏堂の障子を貼れる在家の人日差しの中にきびきび動く |
吉岡
浩子
堺 |
剪定にいそしむ夫の今年また球根の芽をふみてしまいぬ |
防災のバケツリレーははかどらず老い人多きわが自治会の |