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夕まけて十日戎の賑わいのつたわりて来る家居る窓に |
悪天候続く予報に家近き今宮戎に早朝を詣ず |
朝早く吉兆のつく福笹をささぐる人に混じり詣でぬ |
福笹をささげて夕べまかりくる人のさざめく吾がかど前を |
福笹に素早く吉兆をつりさぐる商売繁盛のかけ声かけて |
色しろき千早のそろう福娘かけ声高く吉兆を囃す |
吉兆をかざる福笹を囃す前声に合わせて宮に詣でぬ |
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土本
綾子 西宮 |
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幼子を伴いて移り来し日より五十年の交わりおろそかならず |
またたきの五十余年と思えどもかの頃の幼らは祖父母となれる |
さしなみの三たり連れ立ち接骨院に通う折りふしの会話たのしみ |
次つぎに記憶あやうくなる人の増ゆるとケアハウスの現場を伝う |
彼岸には待つ者多く居るゆえに死を怖れずと友のあかるし |
長生きは肩身の狭しと思う世がそこまで来ているごとき予感す |
医院を出で冬日あかるき並木みち今日より薬が一つ減りたり |
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高 槻 集
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小泉
和子
豊中 |
何の照射浴ぶると知らず横たわり肌着を透きて温もり覚ゆ |
胸骨を数うる技師の指とどめわが鳩尾に印つけたり |
まっ白な方形の部屋に仰臥して命をのばす治療受けたり |
一匙の汁さえのみど通らざる今宵の膳の病食悲し |
春名
久子
枚方 |
心電計直(すぐ)となりたる病室にさむざむとせるしじまのありぬ |
子の編みし愛用の帽と戦友の手紙おさめて柩とざさる |
茫々と日の経る思い街路樹の槻の大木のなべて散りたる |
デパートにお節の見本ならべあり一人のわれの歳晩のくる |
松浦
篤男
高松 |
癩われが存るゆえ苦労極めにし母は五十五歳にてみまかりき |
休まる間とてなく逝きぬ十二人子をなし七人を育てたる母 |
五十年経つつ思ほゆ癩われを残し逝けぬと言い給いし母 |
罪のごと屠蘇を祝いぬ不具われが母を三十年越えて生きつつ |
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4月号
作品より
(50音順に掲載) |
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菅原
美代
高石 |
売れもせぬわが茶碗花器いつまでも置きくるる店との長き係わり |
親たちの知らざりし時を生きている一日一日をすくうごとくに |
田坂
初代
新居浜 |
氷雨降る寒き朝なり「帰ったぞ」玄関に立つリュックを負いて |
戦中の苦しみ言わぬに一度だけ腕すれすれの弾丸の事 |
高島
高貴
阿波 |
裏戸より非常開扉の処置の後廊下に昏睡の婦人見出でし |
苦痛なき死を幸せと葬送の謝辞述べましし心思えり |
高間
宏治
小金井 |
「介山」の名付けし白骨の湯に浸り遠世の人のごとく寂しき |
雪残る山の出で湯の冷え早く湯気は裸木に届くことなし |
竹中
青吉
白浜 |
背丈超す流氷が近年来なくなった北国より遥々暖冬の年賀 |
悪筆を隠すに都合の機械文字個性なき年賀状もめでたし |
中川
春郎
兵庫 |
西山の冬枯れの木に照らしつつ十五夜の月は沈みゆきたり |
寒行の労苦を語る僧ありて注射を打ちて帰りゆきたり |
中谷
喜久子
高槻 |
割烹着はずせば外出かと問える夫との暮し六十年経る |
嫁ぎきて六十年を祝ぎくるる中に妹の亡く弟の亡し |
並河
千津子
堺 |
腰痛にも仕事休まず帰り来て疲れはてたる子の白き顔 |
小豆粥七種粥も子や孫の好まず今年炊かず過ぎたり |
西川
和子
広島 |
私には夢があると繰り返すキング師の声テープより聞こゆ |
繰返すYes,we
can.言霊となり黒人の大統領を生み出し得たり |
野崎
啓一
堺 |
海の彼方の国はオバマで輝くにこの国寒し冬夕暮れぬ |
やすらけく命生きんと恋い願う軒に明るき春呼ぶ雀 |
中川
昌子
奈良 |
春蘭の一寸ほどの花茎のふくらむを見る元日の朝 |
寒の畑に鍬打つ人の傍近く鵙は蚯蚓を狙えるらしき |
名手
知代
大阪 |
友の眼も老いづくと見ゆ届く手紙罫広くして大き文字なり |
納豆売り豆腐屋の声に目覚めにし小日向台町二丁目恋おし |
中原
澄子
泉佐野 |
吾が夫は大晦日にも歩数計携えていづリュック背にして |
四世代集い餅つきする習い八十七歳の母在りてこそ |
林
春子
神戸 |
水銀のごとく光れる海遠く窓辺を細かき雪の落ちくる |
本殿と鳥居を分かち貫ける県道のあり平野八幡宮 |
樋口
孝栄
京都 |
レポートの課題に訪ぬる諸兄の墓供花の蝋梅淡き香りす |
還暦を迎うる夫は学生の寄せ書きされしシャツもらいきぬ |
平岡
敏江
高知 |
新年の港に繋ぐ漁船には竿竹に餅と短冊を飾る |
退職せる夫は魚釣りたのしむと買いたる船を丁寧に磨く |
藤田
操
堺 |
手術後を初めて帰省せる娘また一回り小さくなりて |
昨日来て雪を眺めていし孫の両の手の跡ガラス戸につく |
安田
恵美
堺 |
落葉木の多きに気づく一画の枝のまばらに透くる夕焼け |
正月二日の工場群の煙突が澄む青空へ蒸気を吐けり |
岡
照子
神戸 |
とりたててあらたに願う事もなくおとそいただき祝膳につく |
昭和はじめの暮し描けるカルタ札みつつわれらの話の弾む |
川口
郁子
堺 |
この家のピラカンサの実はもうないよ仲間にしらすように鳴く鵯 |
土曜日のチラシの多き朝刊を階段に積み一階より配りき |
神原
伸子
堺 |
雪止みて靄晴れたれば真向うに表大山の冠雪迫る |
飛騨川の谷の早瀬の逆波を跳ねつつ上る稚魚のひと群れ |
阪下
澄子
堺 |
車椅子に乗りて施設に向う姑の振りかえるなく吾は手を振る |
堂々と年を取ったと坐りいます写真を入れて恩師の賀状 |
佐藤
千恵子
神戸 |
会いたしという代筆のとどきたる二日ののちに友みまかりぬ |
幼子をすっぽり胸に抱く袋を若き母親スリングと告ぐ |
沢田
睦子
大阪 |
雨あがりぬれた墓石をぬぐう時よみがえりくる夫のしぐさが |
こごゆる手に布巾をもちて墓石ふく夫がいた時二人でした事 |