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| 暖かき雨露やどす水仙の花芽のみどり濃く伸び立ちぬ |
| 朝方のやや暖かき細か雨舗道の植込残らず濡らす |
| 歩みゆく舗道の植込濡らす雨夕がた近く路肩に流る |
| 暖かき雨の降りくる夕つ方銀行出入口の早く閉ざしぬ |
| 赤白の花咲く小さきぼけの鉢春まだ寒き日差しに出せり |
| 午後の日に照るぼけの花古り妻が小さき鉢を吾に買い来ぬ |
| 立春の過ぎて咲きつぐぼけの花夕べのうすき寒き光に |
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| 土本
綾子 西宮 |
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| 風邪ひかず転ばず一とせ過ぎたるを喜びとして年を越ゆべし |
| 幾十年ぶりか今日見る梅の園木々老いて花の乏しくなれり |
| 老木の傍えいくところか支えして苗木を育つる丘の梅園 |
| ケアハウスの車椅子にて園を巡る人らおおかた表情乏しく |
| コスモスの花を最も好むべくなりしゆえよしは人に語らず |
| コスモスにたぐえてうかぶ遠き日の面影は永久に変ることなく |
| コスモスの花に埋もれて旅立たば少女に戻りて天翔りなん |
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高 槻 集
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| 安西
廣子
大阪 |
| 柔かき手と言われたり傅(かしず)かれ生い立ちたりし吾にあらねど |
| 裕次郎の映画に思うこんなにもみんな煙草を吸っていたんだ |
| 沈丁花の咲き出づる時近からん庭の蕾の強く香に立つ |
| コンビにの前に繋がれ主待つ犬は穏しき眼をしておりぬ |
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| 岩谷
眞理子
高知 |
| 目的は延命治療と記しあるわが化学療法の承認書 |
| 今にして思えば浅く用意なき心に我は告知受けにき |
| 奥山に杉の花粉の飛ぶを見しその夜の夫の嚏はげしき |
| キャベツスープのレシピ貼りある冷蔵庫夫が自炊に努めにし跡 |
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| 安井
忠子
四條畷 |
| 倒産せる会社の寮に置き去りの電化製品持ち主いずこ |
| 木星と金星短き日の数を並べて別る軌道に即(つ)きて |
| 歳旦の山の社に見下ろせる高層群のすみに子の住む |
| フランスパンの蔕を好める娘言う近頃のパン軟弱なりと |
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| 5月号
作品より
(50音順に掲載) |
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| 長谷川 令子
西宮 |
| 水注ぐ石に二人の母いますそれぞれの正月の思い出ありて |
| わが生母の命日が誕生日にてありし母の手に育てられて今八十歳 |
| 原田
清美
高知 |
| 往来の烈しき那佐の国道に鹿あらわれてよぎりてゆきぬ |
| 夫おらねば笑うことなき一人居に曾孫抱きて嫁尋ねくれ |
| 春名
一馬
美作 |
| 初曾孫わが手に抱きたり髪厚く面まどかなる曾孫抱きたり |
| われの手に曾孫を抱くよろこびを妻に語らう写真に向いて |
| 春名
久子
枚方 |
| 代筆の続ける姉の手紙にて風邪をひくなとまたしるしあり |
| 薬局にもらうカレンダー顧みてわが病みがちの一年なりき |
| 藤田
政治
大阪 |
| 銀行印実印仕舞い忘れてはあわてることの今年いくたび |
| 為すこともなくて書斎に籠りおり話したき友はどこにもおらず |
| 堀
康子
網走 |
| 被害者救済研修の夫と別れ庁舎出づれば霙降りいつ |
| 人去りし美術館ロビーに置かれいる画集は遠き異国に誘う |
| 松内 喜代子
藤井寺 |
| インフルエンザ患者搬送増加する勤務にわが子恙のなきや |
| のどに餅つめたる老を救えりと今日の勤務を昂りて告ぐ |
| 松浦
篤男
高松 |
| 今日よりは意志強くして生きなんか妻の一周忌の焼香をする |
| 妻の亡き寂しさ消えず日記帳繰りて満ち足りし日を顧る |
| 松野 万佐子
大阪 |
| 農家多き土地に育ちて雨嫌と外で言うなと母の諭しき |
| 音ひびくひと日がほどに箱型の白き住宅の町角に成る |
| 松本
安子
美作 |
| 日脚わずか伸びたる夕べ厨辺に芽ぶく馬鈴薯の皮をむきおり |
| 城山にノリツケホーホと梟の声のとおれり夜のくだちつつ |
| 村松
艶子
茨木 |
| 母老いて一人となりぬ節分の柊鰯の習いを守り |
| 餌台の目白の番が目の合いて木陰すりぬけとび立ちゆけり |
| 井上 満智子
大阪 |
| 師ときたる赤目の宿に心安く真夜の激しき雷にも覚めず |
| 姉逝きてひと月経ちぬ我が庭の紅梅すでに開き初めたり |
| 上松
菊子
西宮 |
| 人住まず八年を経る隣家の庭にある木々逞しく伸ぶ |
| パソコンの覚えなきメール開くなと子や繰り返し言いて帰りぬ |
| 梅井
朝子
堺 |
| 咲きつげる幹の逞し年を経て樹皮のわずかに残る盆梅 |
| 辛うじてかたちとどむる盆梅ののべたる枝に白花の咲く |
| 戎井
秀
高知 |
| 今年こそ健やかになれと病む足をひきて追儺の豆を撒くなり |
| 潮ひける磯の寒さに海苔をかく人かげの見ゆ那佐の入江に |
| 大杉
愛子
美作 |
| その膝に昔話を聞きたりしふぶける夜の祖父のぬくもり |
| 今年こそ猪よりも先がけて筍掘らんと話のはずむ |
| 奥嶋
和子
大阪 |
| 青テントの営みの跡除かれて橋の袂をフェンスに囲う |
| 空はれて強き風吹く那智の滝に一瞬淡き虹のかかりぬ |
| 杉野
久子
高知 |
| 蜜柑売る店より見ゆる磯の松黄砂に今日は煙らいて見ゆ |
| 明朝に観光バスが来るという電話あり風邪で店は休業 |
| 筒川
昭子
堺 |
| 若返るプログラムなんて人体にありませんよと医師に言われぬ |
| 北へ去る春近づくに今日も見る一羽のみいて泳げる鴨を |
| 春名
重信
高槻 |
| 日本語と中国語混じるキッチンに働く汝は汗を拭いぬ |
| スーパーの揚物売場宵に入り値引きのシール目立ち始めぬ |
| 増田
照美
神戸 |
| カナダにて神戸の地震を知りたりし娘(こ)の焦燥は思いみざりし |
| 午前零時水道管に音のして待ちわぶる水溢れ出でにき |