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選 者 の 歌 |
桑岡 孝全 大阪 |
わが歩みをかえして仰ぐケヤキ一樹いつと知るなく青葉装う |
挨拶を受けてしばらくしてさとる私服で町をゆくナースなる |
乗客も車掌もマスクをする五月 0h Japanese governability |
しわぶきを一つ洩らせる失態をあかときアナウンサーの謝罪す |
足はやきなまものとしてげんじつをときにながむる七十五歳 |
しばしだにおもいみるべし絶滅に入る最終の一羽のこころ |
歌手モリグチヒロコ早口に物言えば皆目判らぬ耳となりけり |
井戸 四郎 大阪 |
手の平に載る梅の鉢花過ぎて青実が目に付くほどに育ち来 |
切れ切れの音のして打つキーボード吾ながら遅くまた過ちぬ |
老い惚けを感じるままに西窓のまぶしき光にキーボード打つ |
昨夜よりの体調勝れず確かには何と知れざる置き薬服む |
朝々の日に出す木瓜の返り咲く花にならびて円き実が見ゆ |
過ちを見直す時間の永くなり今宵の作業は措くこととす |
この夜の時間はすでに夜半を過ぎ五分遅れの分針合わす |
土本 綾子 西宮 |
花過ぎて桜並木は青葉のとき大川をゆく船より仰ぐ |
ブルーテント取り払われし桜みち青葉の蔭に憩う幾たり |
アクアライナー水に平たく滑りゆくエンジンの音軽く響きて |
行き交える遊覧の船まれまれにて街の喧騒のここに届かず |
船窓を過ぎ行く街の風景に和子さんしきりシャッターを押す |
橋脚にしるき満潮の跡をみてくぐりゆく橋また橋また橋 |
通勤の船に始まりし水上バス遊覧船となりて栄ゆる |
高 槻 集 |
竹中 青吉 白浜 |
今日からは昭和になると六年生神妙にききし三年生われら |
アメリカが生糸買い渋り繭安にやむなく蚕飼やめしわが家も |
きこえねば物言うことの少なくて食後に口漱ぎ目薬をさす |
道ばたのすかんぽの列花こぼす目立たぬデモの過ぎ行くに似て |
岩谷 眞理子 高知 |
息切れも吐気もなきは嬉しかり辛き治療のひとつを終えて |
体温と血圧計る朝のならい術後を早く半年の過ぐ |
懐かしき木々の残れり山ふところの母の生家は記憶のままに |
槙も楓も既に大きくなれる庭に思うぶらんこ作りくれし祖父 |
戎井 秀 高知 |
骨密度改善を信じて飲むミルク寒さもどれる夜ふけのくりや |
コルセット腰に固定しこのあしたパートに出づる心の弾む |
菖蒲湯に足の痛みのほぐれゆくかすかただよう香りの中に |
葉桜の繁りふかまる樹の下にままごと遊びの幼らの声 |
8月号 作品より (50音順) |
安藤 治子 堺 |
賜いたるシンビジュウムは花尽きぬ老い犬を看とりおりたる暇に |
飼犬を悼むいとまに党首替り新病原菌に世は動転す |
井辺 恵美子 岡山 |
雛狙う鳶追い払う岩燕鳴き声高く群れなして飛ぶ |
絵手紙に大き筍描かれて元気ですかと友の添え書き |
伊藤千恵子 茨木 |
両岸の桜並木の若葉のなか船はすぎゆく造幣局あたり |
船の上に三十石船のうた流れのどけき江戸の世を思うしばし |
池上 房子 河内長野 |
喘ぎつつ朝の掃除を終りたり副作用ある薬効く頃 |
飼犬を遠く預けて独り病む隣人の庭の桃咲き始む |
石村 節子 高槻 |
手こずりて抜きしドクダミまた生いて赤紫の葉裏ふく風 |
幼らが遊びに来るとうわが作りし陶器の人形戸棚に仕舞う |
上野 美代子 大阪 |
その姿しかと見えざりわが前を翻りとぶ今年の燕 |
大楠に見守るごとき心地してその下陰に太極拳舞う |
蛭子 充代 高知 |
午後六時競り場に長く吾は寄り木札を開く人の手見つむ |
去年より漁獲の多く落札の鰹の出荷に嫁のやつれし |
小沢 あや子 大阪 |
山間の段々畠に芝桜色とりどりの絨毯なせり |
指笛で曲を奏でる介護師は山に向いて鳥をよばえり |
大谷 陽子 高知 |
散歩道今日は連れだつ友一人墨焼く里山に歩みをのばす |
鷺を背にとまらすままに草を食む牛はしきりに尻尾を振れる |
岡田 公代 下関 |
嘆き聴きし十年前は思わざりき白きドレスに唄える今を |
齢重ねる今を支える少女等の嘆きを聴きて働きし日が |
樋口 孝栄 京都 |
どの木にも管理番号標されて大学植物園辛夷含めり |
振袖を売り込む電話日に幾度子の成人を何に知り得し |
平岡 敏江 高知 |
清めんときたれる墓地に眼鋭く体汚るる犬の居りたる |
五月三日は吾が誕生日東京の弟が元気かと電話をくれぬ |
藤田 操 堺 |
母となる事なき娘今年またカーネーションを送りてくれぬ |
一日を咲きて散りゆくハマナスの紅の花びら甘く香に立つ |
安田 恵美 堺 |
隣りあう席にて今日は語らいぬ絵手紙を長く交わし来たりて |
木々萌ゆる色あわあわと正面に眉山の姿なだらかに見ゆ |
佐藤 千惠子 神戸 |
春を送りますとの姪のメモ添えて天ぷらと濁り酒のとどきぬ |
夏となる二階の軒に簾かく独り住まいの姉を助けて |
沢田 睦子 大阪 |
さわやかな五月の風が吹いているひさしぶりなるお墓へのみち |
虹の中を伊丹に向う飛行機が通りぬけたり夕ぐれ時に |
杉野 久子 高知 |
隣家の子祭りに会うと自衛隊より休暇をとりて帰り来りぬ |
門口に祭の注連縄張りたるを燕恐れて巣に帰るなし |
津月 佑子 宝塚 |
十四年震災ローンようやくに終りましたよ亡き夫見上ぐ |
朝の気を吸いて早出をしてきたる投票所われ一番のりぞ |
筒川 昭子 堺 |
西鉄の線路に幾百の焼夷弾闇這うごとくめらめら燃えし |
戸惑いて目を逸らす少女我の手にガムを持たせて笑みし米兵 |
永野 正子 吹田 |
注目の的は千家の子女という斎王代過ぐお腰與(よよ)に乗りて |
気の荒き一頭の馬人乗せず葵の葉を載せ引かれ行きたり |