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選 者 の 歌 |
桑岡 孝全 大阪 |
貧しきをなげく明治の壮丁はじっと手を見たものであろうか |
チベット地区新インフル死一号と括らるる十八歳女性の生涯 |
ささらにて鍋きよむるをながめつつ飯店に食う月に二日を |
老ゆる身のうごき拙きあれこれを告げて笑い合う理髪店主と |
われのためではないスーパの棚のもの高齢犬用調整資料 |
もういないこの人映像で演技せり現実よりも濃く生き生きと |
電車に乗った夜は疲れて寝付けないというかな長兄八十六歳 |
高 槻 集 |
坂本 登希夫 高槻 |
ガソリン等割当係わが宿直明けて十二月八日開戦を聞きし |
分隊長を解除され五ケ月め再度の召集が日々気になりき |
二度めの召集下士官のみ四名隊の面会所で貧乏籤と大笑い |
同期召集の三名が戦死腰椎不具の曹長となってわれは生還 |
末端血管収縮で足の痺れたる九十六歳湯たんぽ入れる |
二十四錠日々服薬で人手不要九十五歳終らんとする |
町史編纂短歌講師を生きがいに九十六の歳迎うべし |
竹中 青吉 白浜 |
冬籠りせぬ雨蛙をいぶかるに今年は暖冬と予報士いえり |
熱あつの茶粥に卵と酒盗の菜これに過ぎたる朝めしはなし |
洗濯物われより妻のが多ければ下着泥棒の如とりこめり |
スーパーより帰り来る妻のみやげ待つ幼ごころの翁となりて |
金銭出納すべてを秘書の責とする人身御供は今も世にあり |
定額給付九・七割が受領せり有難くして馬鹿馬鹿しけれ |
総理には箱入り息子を何故えらぶ金銭音痴はいずれ劣らず |
松浦 篤男 高松 |
城山の森の変らず不治の癩告げられさ迷いたりし戦時と |
城山見て思いはかえる血筋みな不幸にする癩告げられし日に |
癩の身などままよと空襲警報に逃げざりし道六十四年ぶり |
癩告げられ彷徨せし戦時舗装剥げいし徳島の街ビル建ち進む |
過ぎたれば短かりしよ不具の身を寄せ合いし妻との三十八年 |
紅冴えて山茶花庭にさきたれど好み見し妻もはや世に亡し |
わが妻が好みし庭の黄楊の垣逝きて二年伸びて整う |
推奨問題作 (22年1月号) 編集部選 |
現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
新緑の上は令法の花見上ぐるのみに運ばれてゆく |
故 池上 房子 |
友もまた老いの恙になやむとぞ癒えて再び会う日あれかし |
同 |
少しずつ溶けゆくごとく衰うるわれかと思う秋の陽の中 |
菅原 美代 |
乳足る児のはちきれそうな四肢常に宙を泳ぎてご機嫌よろし |
春名 一馬 |
白髪のふえたる兄のわすれもの納棺夫日記のうすき一冊 |
春名 久子 |
天然の隔離塀たりし海峡の秋日に青し癩は滅びて |
松浦 篤男 |
乳欲りて懸命に泣くみどり児に元気いただく点滴うけつつ |
森田 八千代 |
幼子に話すようですな看取りする吾に不満を伯父のいいたる |
佐藤 千惠子 |
登下校見回り隊と名づけられ旗もちて立つわが姉八十 |
同 |
ごみ袋さげてリフトを降りくれば宵の地上に木星香る |
林 春子 |