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| 選 者 の 歌 |
| 桑岡 孝全 |
| 妻老いてみまさかなまり嵩ずるは紀の人われを軽んずるにや |
| 御真影奉持の白き手袋をぬすみ見たりきしわぶきころして |
| みことのりをよき箱に入れ各学校に備えてよき世ねがいし昔 |
| 鉢に咲く小さきにアッツザクラの名読みて悲しむ終の世代か |
| 重なれるバイク事故にて離散せしロックバンドの音聞く深夜 |
| 目の霞レーザー光にて忽ちに破砕しくれし美貌の女医さん |
| 寅どしのひろしはやっと七十二白い骨灰になってしまった |
| 高 槻 集 |
| 安藤 治子 堺 |
| 暖かき夕べと思うさしなみの家に物煮るにおい立ちいて |
| パンの耳菓子もやらないでと言わるれば駆けより来るを撫でてやるのみ |
| 筍はドッグフードよりおいしいか藪に駈け入り齧りているよ |
| 宵空はほの白くして雨となりぬ暗みつつ優しものの形の |
| 夕飯に呼ばるるまでに暇ありテープを回すトルストイの三部作 |
| 翻訳文といえど細やかな自然描写目を閉じて思わんロシアの原野 |
| 友一人逝き一人病みおり今我は自らに語りかけて慰む |
| 岩谷 眞理子 高知 |
| 針の痛みはもう嫌だと思いつつ続けきたる点滴漸く終る |
| よく耐えたなとしみじみ夫の言う全力なりし闘病の日々 |
| 定まらぬ気候に体調くずしたりこんな事にも再発の不安 |
| 一年間飲みたる薬の副作用か手の指の爪柔かくなる |
| 病院の帰りに寄れる叔母の家今日水揚げの鰤持ち行けと言う |
| 樟の葉の赤く散り敷くみ墓べの道を今日ゆく父の忌近く |
| 尾根伝いの遊歩道来て開けたる視界は青き太平洋なり |
| 故松浦 篤男 高松 |
| 不治の癩に奇跡をと日参せし社の七十年前のままの大楠 |
| 世は進み癩滅び胸張り帰省せり跛行恥じつつ通学せし道 |
| 癩滅び半世紀経てようやくに指曲がる手を人の正視す |
| 癩ほろぶる世に半世紀差別法据え置き患者われら苦しめき |
| 悲惨の極みなりにし癩も世に滅ぶ八十歳のわれらを最後に |
| 世は進み癩癒え長寿果たせども父母を早く逝かしめし罪 |
| 通勤化進み九割が空く官舎国立ゆえの血税浪費 |
| 推奨問題作 (22年5月号) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 誘いくれる人なく電話も掛るなく終る一日がたまさかにあり |
| 上松 菊子 |
| 風ひくな転ぶな義理を欠けよとの父の言葉を思うこの頃 |
| 春名 久子 |
| 眠うなったので眠りますと妻逝きし病室にきて今宵より寝る |
| 坂本 登希夫 |
| 母見舞えば入学式を一人で行かせごめんなと言う思い出すらし |
| 坂本 芳子 |
| きれぎれの夢をつなぎて一夜明け紺碧の空に一ひらの雲 |
| 土本 綾子 |
| 納骨をすませましたと知らせありいよいよ遠くなりゆく友よ |
| 中谷 喜久子 |
| この春に八十歳になりますと己を囃し書く年賀状 |
| 南部 敏子 |
| 日本語の一級を得しアジュマが持つ国語辞典は擦れて膨らみ |
| 西川 和子 |
| 診る度に歩いてますかと尋ぬる医師二月の寒さに問はなくなりぬ |
| 藤田 政治 |
| 人ごみに子の名を呼べり憮然として我より背丈高きが来たり |
| 安井 忠子 |