平成22年8月号より

 

            選     

 

桑岡     孝全

ほど近き女子学園の植込みは冷ゆる五月をつつじのさかり
ベーコンをこの朝も焼く口蹄疫殺処分なる語を知れる春
屠場隣接せる松原市立保育所が妻の終りの職場でありき
かく細くひよわなるもの生い立ちて米と実るのか今更の眺め
苗挿して経る二日三日田居に張る水にこまかきうきくさの見ゆ
心こまやかに体をしいたげて徴られて稲をつくりけんみおや
わがものにあらぬ早苗のすみやかに伸ぶるを朝の歓びとする
                 高   槻   集
坂本     登希夫           高知
しだれ梅の下のアマリリス十輪咲く五月晴れにて臥処出で来ぬ
高齢の各所の機能衰えおる年二回検査せよと院長言う
休暇とる職員多くわが入院を送れぬと子の緊急電話
宅急で衣類は送りバス四時間入院予約は先月済み
十三回目の人間ドック炊事の懸念なし読書嬉しき
独り居の老いを気づかい衣類数多をああ友ら贈り下さる
里山の椎の木々は花ざかり普天間基地を思いて見おり
岩谷     眞理子             高知
異常あり精密検査を受くる母に己が治療の暇を付き添う
横たわりベッドに検査受くる母過ぎし年わが受けにし検査
母を診て悪性ならずと言いくれる先生はわが主治医にてあり
頻繁にメールに体調を問いかける携帯の操作まなべる母に
合鴨を田に放てりと友の電話自転車で町を抜けて見にゆく
早苗田に放てる合鴨一斉に羽ばたきしつつ草をついばむ
田の面を賑やかに泳ぐ子鴨らの同じ方へえと進みゆくなり
平岡     敏江             高知
股関節再手術控うる歌の集い暫くは会えぬ友にまじらう
手術前を心臓肺血液の検査続き広き院内に杖二つ突く
造影剤打たれてCT撮る吾の体の熱く吐気こみ上ぐ
手首にはリストバンドのバーコード放射線科に吾は商品
刻々と手術近づき麻酔担当の若き女医二人が説明に来る
検査無き日は病床に本もテレビも見る気のなくてただ横たわる
八階の病室にいて眉山に咲く山桜を百本まで数えみる
           推奨問題作  (22年6月号)   編集部選
                現実主義短歌の可能性拡大をめざして
きりのなき家事あるゆえに紛れ居り夫の遺影と向い合う日々
上野     美代子
トルコ人は日本人が好きなんだまた行く孫の幸せな顔
神原     伸子
播き了えて籾箱を十個宛積み布団かけ発芽を三日間只管待つ
坂本     登希夫
箱持ち上げいっせいに籾は芽吹きおり今年豊作の前兆なり
      同
駅の窓に吊されている鯉のぼり風にふくらみ硝子を拭う
佐藤     千恵子
昭和三年生れの電車浜寺まで同い年なる私をのせて
白杉     みすき
大陸より年々変わらぬ黄砂の風厭いながらも唯一の便り
竹中     青吉
姓のみで呼ぶ躊躇いを吾に説くオモニの国では非礼とするゆえ
西川     和子
健やかにと山車に二度乗せし父母の祈りむなしく癩に罹りき
松浦     篤男
身の丈に倍する声に泣く赤児鼓動の響き我が胸に受く

 

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