![]()
|
選 者 の 歌 |
桑岡 孝全 |
ほど近き女子学園の植込みは冷ゆる五月をつつじのさかり |
ベーコンをこの朝も焼く口蹄疫殺処分なる語を知れる春 |
屠場隣接せる松原市立保育所が妻の終りの職場でありき |
かく細くひよわなるもの生い立ちて米と実るのか今更の眺め |
苗挿して経る二日三日田居に張る水にこまかきうきくさの見ゆ |
心こまやかに体をしいたげて徴られて稲をつくりけんみおや |
わがものにあらぬ早苗のすみやかに伸ぶるを朝の歓びとする |
高 槻 集 |
坂本 登希夫 高知 |
しだれ梅の下のアマリリス十輪咲く五月晴れにて臥処出で来ぬ |
高齢の各所の機能衰えおる年二回検査せよと院長言う |
休暇とる職員多くわが入院を送れぬと子の緊急電話 |
宅急で衣類は送りバス四時間入院予約は先月済み |
十三回目の人間ドック炊事の懸念なし読書嬉しき |
独り居の老いを気づかい衣類数多をああ友ら贈り下さる |
里山の椎の木々は花ざかり普天間基地を思いて見おり |
岩谷 眞理子 高知 |
異常あり精密検査を受くる母に己が治療の暇を付き添う |
横たわりベッドに検査受くる母過ぎし年わが受けにし検査 |
母を診て悪性ならずと言いくれる先生はわが主治医にてあり |
頻繁にメールに体調を問いかける携帯の操作まなべる母に |
合鴨を田に放てりと友の電話自転車で町を抜けて見にゆく |
早苗田に放てる合鴨一斉に羽ばたきしつつ草をついばむ |
田の面を賑やかに泳ぐ子鴨らの同じ方へえと進みゆくなり |
平岡 敏江 高知 |
股関節再手術控うる歌の集い暫くは会えぬ友にまじらう |
手術前を心臓肺血液の検査続き広き院内に杖二つ突く |
造影剤打たれてCT撮る吾の体の熱く吐気こみ上ぐ |
手首にはリストバンドのバーコード放射線科に吾は商品 |
刻々と手術近づき麻酔担当の若き女医二人が説明に来る |
検査無き日は病床に本もテレビも見る気のなくてただ横たわる |
八階の病室にいて眉山に咲く山桜を百本まで数えみる |
推奨問題作 (22年6月号) 編集部選 |
現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
きりのなき家事あるゆえに紛れ居り夫の遺影と向い合う日々 |
上野 美代子 |
トルコ人は日本人が好きなんだまた行く孫の幸せな顔 |
神原 伸子 |
播き了えて籾箱を十個宛積み布団かけ発芽を三日間只管待つ |
坂本 登希夫 |
箱持ち上げいっせいに籾は芽吹きおり今年豊作の前兆なり |
同 |
駅の窓に吊されている鯉のぼり風にふくらみ硝子を拭う |
佐藤 千恵子 |
昭和三年生れの電車浜寺まで同い年なる私をのせて |
白杉 みすき |
大陸より年々変わらぬ黄砂の風厭いながらも唯一の便り |
竹中 青吉 |
姓のみで呼ぶ躊躇いを吾に説くオモニの国では非礼とするゆえ |
西川 和子 |
健やかにと山車に二度乗せし父母の祈りむなしく癩に罹りき |
松浦 篤男 |
身の丈に倍する声に泣く赤児鼓動の響き我が胸に受く |