桑岡 孝全 |
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齢ふけて保護責任者遺棄致死というを知り口蹄疫殺処分を知る
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紀伊山地の多湿を厭い移り住める大阪平野も雨季のただなか
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雨季なればからだたゆしと何にても口実として怠っている
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なみさるる家長近時の独語癖飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
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ななそじのこれもかなしみ幾冊か読み得ざるまで変色を遂ぐ
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あたまから足まで紫外線遮断して妻の潅水手のくぼの庭
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内視検査して疑いの晴れたりと夜の告白はうちつけにして |
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高 槻 集 |
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安西
廣子
大阪 |
再びの家建つまでの日の恵み白詰草の路地に広がる |
停車する路面電車に手を振りて幼は信号渡りゆきたり |
鼠黐連なり咲けるひとところ歩みゆく間を淡く香りぬ |
おちこちに蕺草咲けり昔見し木草乏しくなりゆく街に |
日曜を試合に向かう高校生か朝の電車に眠れるもあり |
腰重き今朝かえりみる冬布団片付けたるは二三日前 |
寒暖の日々の移りにとまどいてよわいを思う今年の五月 |
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岩谷
眞理子
高知 |
病みてより怠りているガラス拭き晴天続けば高きへ挑む |
書道展の入選通知届きぬと治療中の吾に夫よりメール |
扇風機を回す程入る西の風書を吊りて見る墨乾くまで |
一枚書くに疲れ覚ゆる半切の今年目指すは隷書出品 |
亡き友の母君検診に会いたればわが体調を気遣いたまう |
大雨の後なる今日の強き日差しエアコン修理の電話の続く |
安静時採血という検査にて三十分をわが横たわる |
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平岡
敏江
高知 |
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股関節再手術に備え採血を二度して貯うる四百CC |
股関節再置換術は後の痛みが大変と経験せる友がいう |
心電図のコードをつけて点滴の針を刺されて心さだまる |
麻酔覚め戻れる部屋に酸素マスクして八本の管につながる |
麻酔されて吾は覚えず家族らの案じて待ちし長き時間を |
名を呼ばれ麻酔より覚むる吾に夫は七時間半かかりしという |
リハビリを始むる吾は股関節のまだ痛き傷口さすり動かす |
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推奨問題作 (22年7月号)
編集部選 |
現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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上松
菊子 |
孫からのよき知らせ待ち一週間もう疲れたよお出かけするよ |
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馬橋
道子 |
一周忌の墓前に次男がぽつり言う偶には煙草も欲しかろうよな |
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小倉 美沙子 |
確実に夫を癒すと意気込みて厨に鉄分補給のメニュー |
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川中
徳昭 |
若きより田畑に鍛えしおかげかと片足立ちに地下足袋を脱ぐ |
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坂本
芳子 |
曇天の夕暮れにゆく病院に物言えぬ母に声かけるため |
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平岡
敏江 |
吾が入院の留守中の家事を九十一の母は今回は無理と言いきぬ |
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安井
忠子 |
喘息を幼き頃に病みし子の黄の砂の降る北京に勤む |
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安田
恵美 |
子育てに似通う犬との生活にふたたび父性をためさるる夫 |
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吉富
あき子 |
三月の今日雪降るとその雪のしきりに見たし目見えぬ我の |
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同 |
菜の花の咲き風香る春来たる見えざる我も香り楽しむ |