|
|
|
選 者 の 歌 |
| 桑岡 孝全 |
| 濡れタオルを素首に巻きて凌ぎましし夕刊新大阪社屋の盛夏 |
| 街のなかの青田にあそぶ鷺ひとつ大和川よりまぎれきたるか |
| ゆきずりに見つつゆくかな喪の家の名は未記入の立看板を |
| 嬬恋村降雹のゆえ特価キヤベツ入荷なし悪しからず店長敬白 |
| 亡き人ののこせる声の放送の終ろうとしてあかとき到る |
| 高気圧が夏バテをして週末は暑気おとろうという予報善し |
| 合田八良に『三教指帰』を読む歌があったことなど煙の向う |
| 高 槻 集 |
| 吉富 あき子 山口 |
| 蝉のこえ今は聞えずその姿わが眼にすでに見ゆることなし |
| ふるさとの家を囲みし石の塀母の植えにし紅白の萩 |
| 故里の垣根の萩は咲きたるや行きて見んにも詮無きわが眼 |
| 共々に海に遊びしいとこらを思うよ今はありやなしやと |
| 暑き日に食せしおもうかき氷その名懐かし氷金時 |
| 父母の愛あり世の人の恵みありうれしき我のよわい百年 |
| 雨降れば水嵩増ゆる佐波河の秋鮎掬うさえまち漁ありき |
| 松田 徳子 生駒 |
| 残生をこころにかくること多きわが身を吹かる青田の風に |
| ひとり住み籠り居多きわが身にも熱中症はひとごとならず |
| 朝かげに青田の草を抜く媼時早き穂を見いでて言えり |
| 山に鳴くひぐらしの声やわらかく白き花咲く稲田をわたる |
| 暑き陽の路線に反射するホーム瞼をとじて椅子に休らう |
| 白き湯気膝までのぼる夕立のあとの舗道をむせつつ歩む |
| 伸びらかな茎に咲きたる鷺草の白きをゆらし風のわたりぬ |
| 山口 聰子 神戸 碑周り |
| 空晴るる赤の広場に鮮やかにワシリー寺院の丸き塔見ゆ |
| とりどりの色の建築虹のごと水に映りてネバ河流る |
| レーニン像立つ街中はうら淋し飾り付けなし店も少なし |
| 北のベニスともとぶ旧レニングラードの淡い色調運河に写る |
| 仄明る白夜を歩むネバ河畔細波の揺れ光に映えて |
| 葱坊主なせる形の塔ありて金に映えたる夕陽のキエフ |
| 街角を曲ればつどに魅力ある通りに出会う白夜あかるく |
| 推奨問題作 (22年9月号) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 岩谷 眞理子 |
| 亡き友の母君検診に会いたればわが体調を気遣いたまう |
| 上野 美代子 |
| 写真の夫に留守を頼みて家を出る慣いとなりて百ケ日過ぐ |
| 上松 菊子 |
| 忘るるは天の賜物思い出づるのみに心の痛きことあり |
| 小倉 美沙子 |
| 心何処かに忘るる我ぞタクシーにてきたる美容院今日定休日 |
| 川中 徳昭 |
| 胃を除りて苦渋の選択牛飼を止めたる吾を友の曹゙ |
| 小深田 和弘 |
| つばくろの飛ぶ姿なき空の下飛蝗のいない畦草を刈る |
| 佐藤 千惠子 |
| 老々介護に疲れ給うか夫君のあららぐる声時に聞えて |
| 春名 久子 |
| うかうかと日頃すぎつつ年金より思はぬ保険ひかれていたる |
| 平岡 敏江 |
| 麻酔覚め戻れる部屋に酸素マスクして八本の管につながる |
| 山内 郁子 |
| 秋草のしげる平城宮跡に佇てばわが老い霞のごとし |