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桑岡 孝全 |
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休日のひと日をかけて保育所の庭占めてゆく黄葉の嵩
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ながらえて倦むうつしみや未明時の気温低下を感じつつ居し
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安らかになど老ゆるなと開(はだか)りてやまざるものよ夜の夢にたち
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砲声下沙上の徒死もおもえどもたまきわるわがうちの流血
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生駒嶺に日いずるまえを冬ぞらの藍ふかくしてしら雲のとぶ
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せりふおぼえずなりしが病の端緒という七十六歳女優の一期
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おもながにくちひげ父に似通える土岐善麿をうとましとする |
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湧 水 原
(38) |
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伊藤
千恵子 選 |
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奥嶋
和子
〈 鐃 鉢 〉 |
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緑濃き楓枝交わす蛇腹道大杉の道抜けたる先に |
先生の旧き友なる法印さま作務衣姿に挨拶賜う |
鐃
鉢 (にょうはち)の大いなる音響かえり朝の御堂に数えて二十五 |
黄の袈裟を纏える修行の僧たちの列なして行く御山の朝を |
奥山の杉の木立の位置画に先生一族の石並び立つ |
探幽の襖絵よりも線描の唐絵すがしむ総本山に |
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佐藤
千惠子
〈 足を病みては 〉 |
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野菜佃煮即席麺を詰めあわせ足病むわれに届け給いぬ |
深紅のバラ抱えて友の訪ねくる足病む吾に気鬱払えと |
湯をさしてフリーズドライの蜆汁横着せよと友の賜る |
昼食はタタミイワシと握り飯病みて籠れば質素がよろし |
足をひき発車まぎわを急ぐ吾にゆっくりでいいと車掌の声す |
ぶつかるように走りてきたる若者を咄嗟に躱す余裕があった |
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白杉
みさき
〈 榎春秋 〉 |
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不動さんの石像ひとつ添いて立つ榎一もと佳き蔭をなす |
嫁ぎ来し頃はこの木に気づくなく家事に育児に只管なりき |
日と共に榎のこずえ透けきたりかたちやさしき白き雲見ゆ |
いつ知らず高枝に鵯の巣くうらし優しく鳴きて実をふり零す |
通るたび榎を見上げ立つわれにこの木が好きかと管理人問う |
裸木となれる榎のいただきに宵の三日月寒々とあり |
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長谷川
令子
〈 暑き日 〉 |
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暑き日のもと帰りきて息づきぬ応えのあらぬ只今言いて |
母の残しし小さき枕にそば殻のきしむ音して昼をまどろむ |
切り抜きを探しあぐねて一日過ぐ切り抜かれたる新聞を手に |
三味線の爪弾ききこえくる夜は祖母の部屋には近かづかざりき |
百歳の叔母は息子を気遣えり既に世に亡きを知らさるるなく |
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森本
順子
〈 芦屋の山B 〉 |
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陽明水再び涸れて寂れたり憩う人なきベンチの朽ちて |
しばらくを来ぬ間に小屋のオオルリが巣を掛けたりと翁の語る |
高座谷に大いなる岩落下せし跡のなだりに草木の生えず |
弥生人の住居跡ある会下山(えげのやま)日あたりによく海を見下ろす4 |
草原の再生めざし汗あえて山の仲間と根笹を刈りぬ |
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山口
克昭
〈 界隈 〉 |
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広告に釣られて下見の西の京塔に引かれて住まい定めき |
持ち合わす紙幣一枚を予約金業者わらいて励ましくれき |
東西の塔を一重に見る高処ひそかに知りて時に見放ける |
この寺の千年のちを思いやりし再建大工西岡棟梁 |
浪速より生駒に湧く雲平まりて伊勢路に向かい消え去りにけり |
太柱並みて支うる天平の大屋根の端に陽炎たてり |
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■ 推 奨 問 題
作 (22年12号)
編集部選 |
現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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安西
廣子 |
快き緊張感もてもてなさる作務衣の若き修行の僧に |
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岡部
友泰 |
親しかりし友の認知症知るなくて訪ねて思わぬ悔いとなりたり |
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遠田
寛 |
公園の朝ストレッチに励むあり団塊というを負える一人か |
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神原
伸子 |
耳鳴りの昼夜を癒ゆる事のなし老いの終りはかくあるものか |
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坂本
登喜夫 |
氏神の注連も九十六で最後ならんかさかさの手でてこずり綯う |
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竹中
青吉 |
今に尚海軍の手信号役立ちて妻が食事を知らせて来る |
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土本
綾子 |
杉木立囲う宿坊はサッシ窓に鍵して山の気を入らしめず |
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春名
久子 |
男性はなべて戦場へ夫なく子なく一人と媼の言えり |
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安井
忠子 |
炎天下我が皮膚爛れず衣の燃えず今日原爆の投下されし日 |
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山内
郁子 |
八十七の誕生日なり一枚起請文写すのみにて静かに過ごす |