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桑岡 孝全 |
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美作歌会一の翁は春名さんきたりたまわずあやにくの風邪
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原田たけの井上ちか子杖つきてこたびはきたる十年経しかば
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霜いまだ残りて蒔くをためらうと小深田氏いう四月のなかば
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朝たけてうすらに残る雲海をゆびさす友はここにそだちし
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城がまえおおきく残る鶴山にことしおくるるさくらのにおう
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蓮の葉をふちどりたりと見ゆるもの吹き寄せらるる桜花なる
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| 道に舞い水に散りぼうさくらばな眺めて二日みまさかをゆく |
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高 槻 集 |
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| 安藤
治子
堺 |
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| 朝夕に来て仰げども梢高く咲くけるカリンの花認め得ず |
| 視力障害一級の申請書揃えおり失明の日もいよいよ近きか |
| 鉢の土ほぐし曼陀羅華の種埋むみちのくの泥土に芽生えんは何 |
| 原子発電肯定し来し果ての惨事科学は万能にあらざるものを |
| サラセンの亡びし時に国土に塩撒かれしと聞くはおぞまし |
| 火にあぶり水漬けて責むる刑ありき天を恐れぬ所業なりしか |
| ヴェスヴィオの灰がポンペイを覆いし日遠世の人は何を思いし |
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小倉 美沙子
堺 |
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| 歳月をここに重ねて溜りたる家財庭隅の植木鉢の数 |
| いつかこの家諸共に解体し廃棄せん日のそう遠くなく |
| 告知されし期限はまさに今なればそう見ればいたく夫の衰う |
| 月を隔て夫に逢に来る二人子の疲るる見れば絆は哀れ |
| 過ぎゆきは早し青葉となれる庭去年より癌は育ちいたるか |
| 気兼ねする人なき家に介護するを羨しと言いぬ同居の友は |
| そよ風に誘い込まれてこの睡魔よみさしの本を額に載せて |
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土本 綾子
西宮 |
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| かりそめの怪我に入院の長き夫ついに老々介護となりぬ |
| 看取りよりもどりて灯ともすキッチンにままごとの如き夕餉ととのう |
| 症例は二、三パーセントという遅発性神経麻痺と診断されぬ |
| レンタルの電動ベッドも据えられて車椅子の夫の帰る日を待つ |
| 老々介護もはや覚束なき齢落ち着かず夫の退院を待つ |
| 退院を待ちわぶる夫と不安増す吾との会話と切れ勝ちとなる |
| 唐突にきたる老々介護の日その酷しさにうろたうるのみ |
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推奨問題作 (23年5月号) 編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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小倉 美沙子 |
| 陽のあたる庭土起こしつつ思う夫は病むとも花は咲かさな |
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しぶしぶと杖つきて歯磨きに立つ夫よ酷し過ぎたか促したこと |
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〃 |
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身に深く増殖をせるものありやこんな安らかな寝息の今も |
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〃 |
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しみじみと語れる夜は尚更に思ういたらぬ妻でありしと |
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〃 |
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坂本 登希夫 |
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九十九まで生くる吾を産みくれし垂乳根は三十七で逝きましぬ |
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佐藤 千惠子 |
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またひとり親しき友を葬り来て独りの部屋に動けずおりぬ |
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〃 |
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悲しくて腹立たしくて夫ぎみの急逝にあえる友書き寄越す |
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竹中 青吉 |
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物音に気付かぬ聾の居眠る間に赤魚(とと)のにつけくれしは何方(どなた) |
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土本 綾子 |
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何を食べて元気なのかと尋ねらるそんな齢になりたるわれか |
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鶴亀 佐知子 |
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枕元に夫立つに目覚む要介護の夫がわが夜具直しくれたり |
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