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桑岡 孝全 |
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麻痺免るる左にてきみ署名の訓練署名の必要ふゆる世言いて
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右半身機能失せたるおのが身を見据えて詠まん志をきく
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病むきみに諧謔ひとつヘンシンをしない管理人藤岡ヒロシ氏
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白内障も尿路結石もすっと通じてわびしき会話弾む午後なる
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バンツマの剣戟の如斃れんとして斮りひらき斮りひらく友
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大阪万葉集木編集をささえにし君は病み大山初江世に亡し
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車椅子つとすすめては左手(ゆんで)にてマウスあやつる君の沈黙 |
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高 槻 集
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岩谷 眞理子
高知
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半日ずつ異なる科にて受くる検査術後三年が近づききたる |
右足のみ爪先冷ゆるこの頃かしばらくさすり靴下をはく |
五百ミリ立を飲みてCT検査次第に吐気こみ上げてくる |
吾が治療終えて弟の手術始まる病院に来て会えぬまま帰る |
ご飯よりパンが主食になるという術後の母の味覚の変る |
巣造りの場所をっさがすか燕らのしきりに店の軒へ飛び来る |
午後よりの雨の予報に吊るしある着物をたたむ出勤遅らせ |
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小倉 美沙子
堺 |
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再びをつれ帰ることあるまじと振り返る庭は花盛りなり |
頑張らず枠一杯を託せよとケアマネ言うわが疲労を読みて |
浴槽に身をさらし介助さるる夫人間の尊厳というは何なる |
束の間を帰り来りて庭眺む雨に伸びたる徒長枝剪らん |
折々の慰めなりし花の世話マンションには叶わず一つストレス |
介護より解かるる時は死ぬる時一瞬魔のごとき思いよ |
風切りてペダル踏みゆく今日二時間ゆとり下さい髪を切るため |
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土本 綾子
西宮 |
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この度もまたいくつかの異常示す検査結果をもらいて帰る |
なべて年の所為(せい)と言わるれば言葉なし笑みを返して診察室出づ |
痛さ辛さ口にせざりし老母を思うそのころの齢となりて |
エネルギーの消費少なき小型車と少食の吾を君は揶揄する |
アイパッド自在に操る曾孫たち覗き見ながらただ目まぐるし |
ポストまでの百歩が今日のそと出にて垣の満天星の紅き芽に触る |
今日につづく明日あることを疑わず乱せる机そのままに寝る |
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■ 推奨問題昨 (23年6月号)
編集部選 |
現実主義の可能性の拡大をめざして |
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上野 美代子 |
暗闇に焼け残るたるわが家立ちき三月十三日大阪空襲 |
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〃 |
空襲解けたちもどりにき浴槽に沈めし衣類そのままの家 |
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蛭子 充代 |
生簀に飼う鯵三千匹弟は津波の余波受け流せりと言う |
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小倉 美沙子 |
平均寿命まで生きたしと言う夫よ身をいとわずにきて今更に |
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〃 |
鏡面に夫と並びて映してみる痩せてしまえど大好きな夫 |
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遠田 寛 |
部屋内に日差しのとどき切る暖房わが為す事の僅かなれども |
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坂本 登希夫 |
マラリアで落伍のわれの銃を持ち肩貸しくれし種田逝く |
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土本 綾子 |
震災のあとまたたきの十五年あと十五年経なば百歳越ゆ |
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故 春名 一馬 |
同室の人の立ち居の静かにて今日移り来し二人部屋は佳し |
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山口 克昭 |
畚(もつこ)負い巨大墳墓に土盛りし人に達成感のありしや |
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