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選 者 の 歌 |
桑岡 孝全 |
屋上に掲げっぱなしの日の丸がゆるみて半旗となれる八月 |
転勤しきたりてわれの座席なき職員室にたちつくす夢 |
正岡子規鈴木貫太郎が同年なるをにれかみ思う日の終りゆく |
農薬のなかりしむかしははつらつと跳びこむ音を芭蕉聞きしや |
襁褓して敢えて歌会に出でませりかわることなき律儀悲しく |
台風接近刻々の報そのかみのB29梯団北上のごと |
日本海へ抜けて北上雨台風それからさきは知ったことかよ |
高 槻 集 |
小倉 美沙子 堺 |
我かねて望めるままに捗りて戸建に夫の骨は戻りぬ |
なす事は山ほどあれば悲しみも今日は薄れて家の片付く |
少しずつ放ちゆくべし二ケ月半留守せる家にこもれる湿気 |
僅かなる遺族年金で生きてゆくその現実に涙は拭かな |
哀しみの向う側にも希望あり立ち上がらねばと未亡人三人 |
夫の声風のまにまにきく如し独りで渡る陸橋の上 |
台風の逸れたる庭に摘む花のかすかな揺れは秋思わしむ |
遠田 寛 大阪 |
わが遠く別れて過ぎし五十年汝が命終を知らせて来たる |
三人の子を育て暮らしを凌ぎたる汝に一期は九十一年 |
終の日まで吾に会いたく言いいしを短く告げる娘の電話 |
親族の席に列なり焼香す孫曾孫らは吾を知るなく |
みずうみの移ろい窓に親しみて汝と暮らしし十三年間 |
返らざる日は忘るべし裡深くとどまる影は影としながら |
歳だから気をつけてねと言う娘バス停までを伴はれつつ |
山内 郁子 池田 |
父には父母には母のめぐみ受け八十八のよわいいただく |
米寿なる誕生日今日八月八日空高くしてただ閑かなり |
予期せざる長寿さずかり朝々をみ堂に念仏(ねぶつ)し香をまいらす |
父母の示されし道歩みきてわが今日の日に悔いはあらざり |
時くればやがて浄土へ還るべしうつし世の憂き種々(くさぐさ)はなれ |
いくばくもなき命なり頭北面西(ずほくめんさい)に寝ぬるを安らぎとする |
亡き夫を父母をこもごも思う日よ秋立つ空にかかる夕雲 |
■ 推 奨 問 題 作 編集部選 |
現実主義短歌の可能性の拡大をめざして |
九十を越えたる母の口癖はスンデシマヤァマァジッキダニ |
奥嶋 和子 |
退職後訪ねし母校の名簿には行方不明の一人でありし |
奥野 昭広 |
放浪のごとき暮しの幾日か入院退院終にホスピス |
小倉 美沙子 |
淋しさの極みにありて眺むる空街は今丁度陽の沈む色 |
〃 |
朝目覚めしばらくおいてああ妻はもういないのかと納得をする |
忽那 哲 |
この四五日白き蝶舞うただ一つ妻の育てしランタナの花に |
〃 |
満年齢九十八なり父母へ感謝の朝の灯りを上げる |
坂本 登希夫 |
冬雲にうすく透けたる夕日みて恋しくなりて子にメールする |
坂本 芳子 |
人類は地球に巣くう寄生虫駆除せよと地震津波温暖化 |
竹中 青吉 |
廊狭く段差の多き古家をととのえて車椅子の行き来に備う |
土本 綾子 |