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| 選 者 の 歌 |
| 桑岡 孝全 |
| 秋涼の到れる朝をシャワーして七十八歳の皮膚はよろこぶ |
| 車酔いふせぐヨワンというくすり持ちて三日の旅に発つ妻 |
| 風荒れと大雨の秋老いづきてまどえるおのが裡(うち)のごとくに |
| 白川静氏市民向け文字学の開講は八十九歳にてありしとぞ |
| 今更にしたしみおもう塗る上に塗りて倦むなきルオーの技法 |
| 教員総起立而(しこう)して国民総起立さらにつづかんものをわれ知る |
| 晩年の歌評は優しくなっていたなどと言われんことも業腹 |
| 高 槻 集 |
| 小倉 美沙子 堺 |
| 夜のバスのガラスに映るわが顔の八の眉してまた泣きべそに |
| 蟹解禁の折込チラシ来る季節夫在らば行かん北陸の旅 |
| 向き合える席に夫なき夕べの膳不覚の涙が出るはこの刻 |
| みひらきて我をみつめしその視線すでに脳死の後なりし知る |
| 怠りの跡は正真この年の菊は野菊のごくの如く小振りに |
| もう少し濃密に生くべかりし悔い慣れし我等の惜しき歳月 |
| 秋晴れの空広がれる静謐に偲びて過す今日百ケ日 |
| 坂本 登希夫 高知 |
| 九十七が子に付きそわれ最高齢賞貰うと来れり照れ臭けれど |
| 最高齢の賞もらいたり六年十月を中国ビルマに戦いしいのち |
| 一万の兵溺死せしシッタン河萱束にひと夜すがり渡河しき |
| コスモス咲き木犀香れど恩給申請如何なる結果になるかを思う |
| 二百走に金メダルをとりし二男仏壇に供え施設にもどる |
| アララギの昭和五十一年六月号其二に子と親並び載る羨し |
| 細き葉の土佐蘭は花咲きそむタップリ水やり書斎へ入れる |
| 竹中 青吉 白浜 |
| みくまのの神も洪水に流され来て渚の砂(いさご)にまぎれいまさん |
| 紀伊半島僻地は大雨大洪水三県知事会議に強烈パンチ |
| 台風につぶれし跡にたちなおる秋蒔野菜人のいそしみ |
| 音信の杜絶えいし被災地の友二人詠草届く今日のよろこび |
| たずね来て大雨にあいずぶ濡れに汝らもすでに年寄なるぞ |
| 世間話してくれるあり無口あり介護師いづれも心うつくし |
| 介護師も時に入れ替ることのあり美貌の一人この頃見えず |
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■ 推 奨 問
題 作
(23年11月号) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性の拡大をめざして |
| 採血の針なかなかに入らぬなり治療の長き血管固く |
| 岩谷 眞理子 |
| なす事は山程あれば悲しみも今日は薄れて家の片付く |
| 小倉 美沙子 |
| 親族の席に列なり焼香す孫曾孫らは吾を知るなく |
| 遠田 寛 |
| 寝転びてサウナの壁に足裏をあててこころは砂漠の蜥蜴 |
| 佐藤 千惠子 |
| 我が母は四人の子供を冷房なき世の八月に生みたまいしや |
| 沢田 睦子 |
| トンネルを一つ抜ければ香川県今日初盆のわが檀家あり |
| 高島 康貴 |
| カレンダー去年のままの夫の部屋二階へあがれずなりて一年 |
| 鶴亀 佐知子 |
| いくばくもなき命なり頭北面西に寝ぬるを今の安らぎとする |
| 山内 郁子 |
| シーツごと吊り上げられて忽ちに救急車内引き入れられき |
| 山口 克昭 |
| 授業中夏空みていた六年生飛蚊症はあの頃よりか |
| 吉田 美智子 |