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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 |
| 三十人今日をあそぶと発つ朝に友退院の報のつたわる |
| 立案も引率も佐藤千惠子におんぶこころ安らに倉敷にあり |
| 先生と来しそのむかし倉敷に何を食いしや思い出だせず |
| セガンチニのアルプスに僅か記憶あり大原美術館ああ五十年 |
| 観光客優先の忍辱を少し知る紀州高野のやまに育ちて |
| 高 槻 集 |
| 吉富 あき子 山口 |
| 生まれては働き疲れ老いて死ぬ人の一生我もそのまま |
| ちち母のみ許に我も旅立たん長くはあらじしばし待ちませ |
| 慶応にたてたる家に我生れてすでに百歳家も古りたり |
| 母ありてわが家の庭にすき焼きの花見せし頃楽しかりけり |
| 風ぬくし花の便りを聴く今も見えざる我は香りかぐのみ |
| 満開の花のもとにてその花を愛でつつ食ぶる花見まんじゅう |
| 春半ば梅雨くる雨のすがしさをもろみに浴びて伸々とあり |
| 坂本 登希夫 高知 |
| 訃報欄に九十一の戦友種田が載る病室に終日追憶のビルマ戦線 |
| 行き来三百キロを子の車で種田の墓参若葉映える山峡の路 |
| 新しき墓碑の下に眠る種田ビルマで落伍のわが銃持ちくれき |
| 心電図の太き直線見事とぞ医師は狭心症癒えたるを言う |
| 両側は新芽伸びたつ松林車中にくつろぐ狭心症癒えて |
| ハウスに播種の南瓜西瓜干瓢の芽ばえせるに九十八が水やる |
| 買いきたる接ぎ苗の西瓜天竜をハウスに定植する息をつめつつ |
| 竹中 青吉 白浜 |
| こぶし咲く尾根伝いの道行きゆくを思える暇に春の過ぎゆく |
| 春竜胆(りんどう)切れ長の目を思わしむ思いは老残となりたる今も |
| 用を足し覗く星空の三角形少年ピタゴリアン老いたるかなや |
| 徒らに長生きをして来しいのち白く帯なす星くずの下 |
| 孫娘の如き年頃ケアマネージャー耳打ちに話してくれるが嬉し |
| 古畚(もつこ)と年寄使い得幾年ぶりぞ草刈機持ち出して振る |
| 日に透きて戦(そよ)ぐ酢葉(すかんぽ)の哀願もなんのその草刈機の傍若無人 |
| ■ 推奨問題作 (5月号から ) 編集部選 |
| 現実主義の可能性拡大をめざして |
| 居並べる確定申告作成に老いての女性は我ひとりなり |
| 小倉 美沙子 |
| 木守り柿発酵したる木の元に酔いたる鴉怪しく踊る |
| 黒川 理子 |
| 二年後の百歳に歌集出すと決む狭心症の憂いはあれど |
| 坂本 登希夫 |
| ウイスキーチョコの恵みは去年のこと気紛れ天女今年はいまだし |
| 竹中 青吉 |
| 淋しくなった母呟きぬわが夫の他界を知りてぽつり一言 |
| 鶴亀 佐知子 |
| 殆どが認知症の人と母言いぬ話せる友の少なき嘆く |
| 〃 |
| 専用の机持たざる講師にて大き鞄さげ教室移る |
| 中道 英美子 |
| エレベーターの底より周囲を仰ぎみる二人用バギーの四つの瞳 |
| 長谷川 令子 |
| ほどほどに健やかに経る一年を緊急電話機に埃のつみぬ |
| 春名 久子 |
| 雪山に撃たれし鹿が鍛冶屋ケ瀬の橋の袂の淀に浸さる |
| 松本 安子 |
| 工場はわが家に近く昼と夕べを食事に帰る十二歳なりき |
| 松野 万佐子 |
| ビル街に二月の雨を避けながら衰うる友とタクシーさがす |
| 山口 克昭 |