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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 大阪 |
| いつとなき過去なつかしく雨水の溜りに落ちて輪をえがく雨 |
| 農に従事の平均年齢六十七と聞きおよぶこの国はもつのか |
| できるだけのことはしたりし秀吉か二代を全うせぬ家ながら |
| 性根なる台詞を聞きてなつかしむ昭和十一年作小津の映画に |
| 番長として日を送る少年のつらきこころもかつておもいし |
| 高 槻 集 |
| 安西 廣子 大阪 |
| 春闌くる昼のしばしを鳴き交わす鳥あり姿見えざるままに |
| 白き花雨受け止むる形して泰山木は高く咲きたり |
| 病む夫に代われる吾の剪定に今年の紫陽花莟少なし |
| ありがとうございましたと表示あり敬老乗車証機器に翳せば |
| いく度も栓無きことを思いつつ帰る家内百合の香りぬ |
| 矢印は暗き廊下の奥を指す霊安室あり病院の中 |
| 花茎の闌けて傾く擬宝珠にたふるれば落つ淡きむらさき |
| 中谷 喜久子 高槻 |
| この宵は眠れているや微熱つづく夫の思わる外は月照る |
| 何時にても応接明るきナース等に支えられつつきたるを思う |
| なかなかに復調ならぬあせりとも夫の食欲不振のつづく |
| 育ちたる胡瓜の苗を本床に移し植えたり見とりのひまを |
| 隣家より堆肥下さる手すさびにトマト二本を植えたる吾に |
| 気力もどる夫か散歩を今日よりは三十分に延ばすと出でぬ |
| 残さるる吾のたつきを時に言う先立ちゆくと決めているらし |
| 南部 敏子 堺 |
| わが丈まで茎の伸びたる人参にいかなる花の咲くかと待たる |
| 人参の花咲きつぎて誘うにハナムグリハチアリも登り来 |
| 認知症の検査をせよと子の言うをそうやねと受け心うろたう |
| はじめての街の病院に付きくるる足早き子に合わさんと息急ぐ |
| 予約せる午後の院内しずかにて認知症センター若きも出で入る |
| どのような検査受くるか昂りて指図のままに吾の従き行く |
| メカの立つるさまざまの音四十分頭部MRI真面目に仰臥す |
| ■ 推奨問題作 (7月号から ) 編集部選 |
| 現実主義の可能性拡大をめざして |
| 車椅子押して毎朝ゆく散歩木草の芽吹き夫と語りて |
| 安西 廣子 |
| 少しずつ夫在りし日と変りゆく圧力鍋を小さく替えて |
| 上野 美代子 |
| 手遅れにさせて逝かせたこの落度如何に言おうと愚かの一言 |
| 小倉 美沙子 |
| 日曜に病院までを乗る市バス悲しいほどに客の少なし |
| 奥嶋 和子 |
| 日の残る遠き辺りの吾が家に妻は一人の夕餉の時か |
| 遠田 寛 |
| 面会の時間余して部屋を出る背くぐまる汝の姿見送る |
| 〃 |
| 訃報欄に九十一の戦友種田が載る病室に終日追憶のビルマ戦線 |
| 坂本 登希夫 |
| 誤嚥防ぐと仕方なくすり潰すこれでも食事というのだろうか |
| 坂本 芳子 |
| 徒らに長生きをして来しいのち白く帯なす星くずの下 |
| 竹中 青吉 |
| ひだり手に慣れぬケータイ操りて一つの結社へ退会申請 |
| 鶴野 佳子 |
| 学生の授業アンケート「退屈」を肯いシュレッダーに噛ませる |
| 中道 英美子 |
| 麻酔より醒めぬ恐れももつ夫のストレッチャーの上で手をふる |
| 中谷 喜久子 |