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選 者 の 歌 |
桑 岡 孝 全 大阪 |
タンシチュウー賜りたるを古り妻の食わねば一人吾二度に食う |
工事音果つる夕べをいでてきぬちいさい秋はいずこにもなく |
旅をゆく宮地先生おもいいづれば大きく古き黒革鞄 |
君の歌集失ったんだ黙っていて済むのに詫びて囁きましき |
高 槻 集 |
安藤 治子 堺 |
わがうとき耳にも届く遠雷に今宵夕立ちの町を羨しむ |
膝痛み水の運べぬ昨日今日鉢の公孫樹は緑保つか |
滝道に床張り料理供すると今朝のニュースの耳に留まりぬ |
箕面川水増し吾が町に溢れたり幼くて面白きことに思いき |
夕べ夕べ雷鳴り滝のごとふりきま近き待兼山のけむりて |
雨にけむる北摂の山並み恋い想う夕照り永き町に住みいて |
雨の日には爪皮かけし利休下駄昭和も母も遠くなりたり |
竹中 青吉 白浜 |
朝の蚊叩きそこねて逃げられぬ今日一日のはじまりにして |
公園のパンダ出産よろこべと町の人口減るをいうなし |
剃刀をつかえばお出かけかと聞かる年寄も人並みに見て下さるか |
原爆投下指示せし大統領の孫日本に来るのも時の移りか |
隣国に領土の島を踏まれるは爺(じじ)が戦に負けたからなど |
国内デモおそれ衆目をそらすべくいつも乍らの反日煽る |
戦争放棄を逆手に増長する国柄つね油断なく見守る外なし |
鶴亀 佐知子 赤穂 |
われに何言い残すなく逝きし夫思えばわれも別れ言えざりき |
人としての尊厳保ち逝きたるを子ら共々に初盆にいう |
余りにも端正なまま逝きし夫を自制心なきわれは恐れき |
介護度の改善されし老母に特養出でよと通告のあり |
己が事自らなせる九十六歳忽ち特養出でよと言わる |
特養の退所の通告に老母のショック大きく寝付く日々増す |
辛うじて己が身を支え来し母に福祉制度の思いやりなし |
■ 推奨問題作 (9月号から ) 編集部選 |
現実主義の可能性拡大をめざして |
病む夫に代われる吾の剪定に今年の紫陽花莟少なし |
安西 廣子 |
認知症専門医へ母を伴えり遠足にでも行くような母を |
尼子 勝義 |
お洒落してまめに外出を楽しめと子よりのメールは能天気なり |
小倉 美沙子 |
幼子の拳ぐらいの玉葱の収穫終えて菜園を返す |
川口 郁子 |
九十八の誕生日を迎えたり産みくれし母行年三十七 |
坂本 登希夫 |
生まれた日面高であったみどり児は丸々太り鼻がかんぼつ |
沢田 睦子 |
中村憲吉歌碑番人の植本亡く乏しき松吹く松風のおと |
竹中 青吉 |
お洒落心忘るる勿れと娘よりアクセサリーがどっさり届く |
鶴野 佳子 |
残さるる吾のたつきを時に言う先立ちゆくと決めているらし |
中谷 喜久子 |
認知症の検査をせよと子の言うをそうやねと受け心うろたう |
南部 敏子 |
乗るごとに席譲られぬ心の萎え顔の疲れとなりているらし |
安井 忠子 |
中国勤務より帰りきて経る日々に子の容貌の穏やかになる |
〃 |