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選 者 の 歌 |
桑 岡 孝 全 大阪 |
聡かりし勁(つよ)かりし人に衰老は釣瓶落しのごとくきたりき |
わかきより髭をたくわえひとまえに笑まい湛うる面影も永遠 |
顎ひげを伸ばす試み真紗子さんと夫人が諫言立ち消えとなる |
ニヒリスト自称に遠き写真あり自らの歌碑を背にして顎鬚 |
奥様の不在に訪いて蕎麦屋にて摂る夕食に相伴をせし |
ピスタチオ好みまししをおもいいづ食品売場をゆく折節に |
彼と違って君には謀反気があると褒め給いにしある夜を思う |
土本さんら奔走の赤きベレーとベストを贈りし会合吾司会して |
水子供養の帰りと言いて唐突にわが建売に立ち寄りましき |
緑の車を駆りてお洒落なお医者さま妻の得たりし第一印象 |
高 槻 集 |
竹中 青吉 白浜 |
日の丸をむざむざ奪わるる不詳連隊旗うばわれし例(ためし)はあれど |
日の丸を盗ませそれを逮捕する脚本ありて筋書き通り |
ロンドンに思いがけなき金メダル日の丸掲ぐるは誰が家の子ぞ |
金メダル日の丸揚ぐるは涙ぐましここにも一躯老骨のあり |
日の丸の尊厳を軽く見る勿れただ振り廻すものにあらねば |
日の丸の白地汚して文字書くに疑問もちしは今もかわらず |
顔ぶれは夏蜜柑の並ぶごとければ一国のことまかすに足るや |
土本 綾子 西宮 |
墓碑に添い尺ほどもなき鶏頭の一本立つに心は和む |
初秋(はつあき)の日のふりそそぐ奥つ城に君が読経の声澄み透る |
瞬きの七年なりき衰えは君が齢を超えていよいよ |
かえりみて長し短し三十余年仕えて心足らいし日月 |
叱られし記憶はただの一度のみその成り行きも今は茫々 |
片町線鴫野の丹洋印刷処従いて通いしことも幾たび |
パソコンもコピー機もなき時代にて夜を徹しガリを切りたることも |
坂本 登希夫 高知 |
九十八の命祝(ほ)ぐがの花あかり庭のしだれ梅ま白にぞ咲く |
県警友連合会の長寿番付け九十八が東の横綱 |
九十八が町最高齢の賞もらう六年四(よ)月戦場生ききし |
白寿にはあと六月(むつき)なりシヤンの道で背負いし兵二宮の死を思う |
分隊長が病兵を交替で運びたり二度め負いし二宮は逝けり |
われの背で息きれし気づかず遺体を長く運び言われ下ろしき |
九十八が狭心症で二度めの入院乳癌で妻の逝きし室に臥す |
■ 推奨問題作 (10月号から ) 編集部選 |
現実主義の可能性拡大をめざして |
一時帰宅衰えて姉に支えられ歩む洋服だぶついている |
佐藤 千惠子 |
背の丸く小さくなりて老ゆる姉の夫を看取りに二時間を行く |
〃 |
お父さんと呼びくれるヘルパーの父も中国戦線ゆ帰還し故人 |
坂本 登希夫 |
里に出て腹ペこの熊麻酔うたれ筍みやげに山にかえさる |
竹中 青吉 |
米寿にていまだ主婦業を免れぬ朝夕べにほとほと疲る |
土本 綾子 |
晩年の夫の使うは稀なりし手摺に頼るわれとなりたり |
鶴亀 佐知子 |
咲きそむる白き木槿の花切りて夫に供うる大暑の朝 |
〃 |
連合いを失いてより死を身近に思う日々なり周平氏も書く |
南部 敏子 |
標高の千七百はやや涼し視界はすべて山のつらなり |
春名 重信 |
風邪のあと不調のままをいで来り重ね着をして弱冷車にあり |
春名 久子 |
足腰の弱りてデモに参加ならず原発いらぬと節電励む |
安井 忠子 |
晴るる今日金剛登拝五千回頂上の札に夫の名加わる |
大山 康子 |