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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 大阪 |
| あおぎみるビル壁面の突起にいる大きからすの大き声する |
| われにくるべかりしおとめを齝(にれが)みておもうことある吾や八十 |
| ひとさじの恒河の沙を透明のふくろにつつみ人のくださる |
| やそじなる身の置きどころ何がなし重き空気のしたに長まる |
| 何でも似合う年頃ながらコンビニの少女今朝からサンタに扮す |
| 高 槻 集 |
| 安藤 治子 堺 |
| 程近き運河より聞ゆる汽笛あり霧こむるかと目覚めて思う |
| 沖合に泊つるタンカーの除夜の汽笛相い呼ぶ響き夫と聞きしか |
| なぎさ近く住みつつ冬の夜明けの海見ることもなく過ぎて来りぬ |
| 家内に狭く忙しく働きて重ねし齢卒寿と言うか |
| その齢にならねば分からぬという言葉しみじみとして今日冬至なり |
| 手足まといの老の身を如何に処すべきか津波浸水の予想八メートル |
| 越冬の毛物の如く日々の飯健やかに食し春待つわれは |
| 坂本 登希夫 高知 |
| この正月の餅が最後となるらんか九十八が杵ふり下ろす |
| なにくそと杵ふり下ろせど九十八の足はよろめき息のはずめる |
| 南天の朱実鮮やかな下に立ち白寿の初日吾は拝(おろ)がむ |
| うす曇りの初日腹だたし白寿吾れの天寿つきる年となるのか |
| 盟友と決めし楠瀬大人の歌誌にふた月つづき作品のなし |
| 御用船でビルマへ征きし部隊の中伍長五名生還は吾れのみ |
| 産みおとす牛がやおら立ち上がり授乳うながす声をあげたり |
| 鶴亀 佐知子 赤穂 |
| わが母に足湯使わせ始めて知る遠き昔の凍傷の跡 |
| 奈良の山に薪を採りて幼き母爪を失う凍傷受けし |
| 預けられし少女期隠れて学びし母の新聞隈なく読む九十六 |
| 戦破れ禅寺に仮寓せしわれら守りて母の三十年耐う |
| 幾百年へたる蘇鉄の幹支うる石柱増えぬみ寺の庭に |
| この寺に育まれたる歳月の遥かとなりて見る大銀杏 |
| 大屋根にのぼりて日の出観察し新年茶礼に叱られし於転婆 |
| ■ 推奨問題作 (1月号から ) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 板書せし試験通知を携帯に収め学生ら目薬を差す |
| 中道 英美子 |
| 難題に独り向き合うわれが居て夕餉の根菜一挙に乱切り |
| 西川 和子 |
| あの時の白い御飯は旨かった母の着物と米とり替えて |
| 林 春子 |
| 花手まりの枝を揺らして孫のかげ鬼から隠れとおすかどうか |
| 松内 喜代子 |
| 肩にある見えなき塵をお互いに見つけ会うのが歌会と学びき |
| 松野 万佐子 |
| 羽化のみに力尽きてか蝉一つまろべり羽の透き通るまま |
| 安井 忠子 |
| 秋灯の光分かちて書を読みし傍えの夫はもう世にあらず |
| 小倉 美沙子 |
| 足袋履けぬ曲がりし指を悔しめる祖父の一生よ寺に生まれて |
| 黒川 理子 |
| 停年退職の子に根深苗は三本宛植えよと教える |
| 坂本 登希夫 |
| わが姉は八十五歳軽四の新車にかえて駅頭にまつ |
| 佐藤 千惠子 |
| 独眼に近き老妻の手を曳きて駅より病院までの二百メートル |
| 高島 康貴 |
| 麻痺したる右手を大事にさすりやる物縫い調理もせし右の手を |
| 鶴野 佳子 |