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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 大阪 |
| 冷えわたる今宵思うは子息のもと信濃に病むという人のうえ |
| 是非とものねがいならねど見ずに終るか閑谷黌も桂離宮も |
| 街を奔る猪を報ずる摂津池田に就職するわれを母の憂えし |
| 老いて膝病まば襌僧はどうするのか考えてみる吾も病めれば |
| 話に聞きて会わず終わりき菊池寛に風貌似る遠縁の鉄工所主人 |
| 高 槻 集 |
| 安西 廣子 大阪 |
| 久々に深く眠りて覚むる朝身に再びの力湧きくる |
| 恙ある夫がホームに暮すこと吾が病む時に有難きかな |
| 家うちに足音聞くは久しぶり今日息子らの来りて泊る |
| うとうとと微睡むことの多くして夫はホームにこの春をあり |
| 心ひくひとつでありしつくしんぼ今年の春はただに見て過ぐ |
| 背を伸ばし桜の下を歩みゆくくぐもる鳩の声聞きながら |
| 去年の秋わが埋めたる水仙の思いたるより小さき花咲く |
| 鶴亀 佐知子 赤穂 |
| 始発電車の二両目のこの席なりき夫と並びて旅せし幾度 |
| ただ一度空飛ぶ旅に連れ立ちぬ窓側に坐らせ呉れし夫思う |
| 香り良きコーヒー好みし夫に合わせ過ぎ経し今は日本茶が良し |
| 喫茶店に初めて入りて黙々とコーヒー飲むをデートと思いき |
| 七歳の年の差なればわれはまだコーヒー知らずケーキが良かりき |
| 不器用にプロポーズもなく連れ廻す君に不思議に惹かれゆきたり |
| 義母となる姑に最初に言われたり難しき子を好きくれありがとう |
| 鶴野 佳子 大阪 |
| 猖獗のインフルエンザに職員のマスク着くるにわれらの倣う |
| マスク着け食事の時間となりにけり一体マスク如何に致さん |
| 大阪に何年ぶりかで積む雪に驚いて向うデイサービスに |
| 降る雪は窓よりいくら眺めても積む気配なし大阪の街 |
| 左手では包丁が使えぬ侘しさに泣きたくなりぬ泣いてもいいか |
| 発作的に死にたくなるを許されよ右手の麻痺は心を殺す |
| 車椅子のわが足元に転がってきたるボールを蹴り返し得し
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| 湧 水 原 (45) |
| 伊藤 千恵子 選 |
| 佐藤 千惠子 (曼珠沙華) |
| 何ゆえにここに挟みし思わざる兄の遺せるメモの出でたる |
| 甲山の桜いまごろ咲きていん共に眺めし兄はもう亡し |
| 山峡の宿をゆるがす台風につどいぬ兄の一周忌なる |
| 兄の植えし紫木蓮なり返り咲く花に黒揚羽一つまつわる |
| 姉夫婦をたのみてすがる心ありて三十余年を居候せし |
| 長い読経を厭いし兄を偲ぶなり供養の経に唱和しながら |
| 雨の日は人に会えなくて寂しいと電話のむこうの気弱なる姉 |
| 森本 順子 (八風越え) |
| 川沿いの街道たりし林道の石のあらきをなずみつつ踏む |
| 荷を背負うままにあずけて憩いにし腰高石の苔むし残る |
| 田光(たぴか)川源流となる滝見えて石をとびつつ川を渡りぬ |
| 谷あいは四月半ばを雪残る木々の芽ぶきをいまだ見るなく |
| 伊勢平野見下ろす峠平らかに社の名残鳥居のたてり |
| 急なだりを八風谷へ下りゆく水に漬かれる落葉を踏んで |
| 藪抜けて八風街道恐ろしきヤマダニ腕にはりついている |
| ■ 推奨問題作 (4月号から ) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 夕暮れの駅に連呼の声ひびく何頼むなき選挙始まる |
| 脇本 ちよみ |
| カラマツの枝の霧氷の舞いて来てメガネに露を結びとどまる |
| 天ケ瀬 倭文子 |
| シベリアより還りし父に背(せな)を向け泣きにし遠きひとつ思い出 |
| 荒井 比佐子 |
| 夜勤ある三交代の疲るるや資格取らんと子は勉強す |
| 安西 廣子 |
| 病名は問うなく我も口にせず限られし三月苦しかりしよ |
| 安藤 治子 |
| 遺影の下ふとんに顎まで埋め寝ん夫の命日三たびめぐり来 |
| 上野 美代子 |
| 寺毀ち御仏の首かき取りし維新の果てや兵士の墓立つ |
| 黒川 理子 |
| ふくよかな体が骨と皮になり父は死ぬまでロシア怨みき |
| 沢田 睦子 |
| 舞鶴に出迎えの母体重が半分の父を見あやまりにき |
| 〃 |
| 六キロは膝に重たし二ケ月のひい孫に今日初対面す |
| 土本 綾子 |
| 陽光を好む植物と説明を記せど窓の小さき個室 |
| 鶴野 佳子 |
| 生うるまま自由に咲けと境内の冬の蒲公英に僧わが子言う |
| 山内 郁子 |