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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 大阪 |
| 教職を辞して二十年学校はいずれも桜の咲く四月なる |
| 学生われ籠りし二階の六畳もすでに失せにき山のうえの家 |
| 友ありて外の道より二階のわれをこえに呼びにき学生時代 |
| 早口を聞きなずみたる未明の夢耳の老ゆるは現実にして |
| 兄の隣人兄と思うかわれにむきて道に一気に語りかけくる |
| 高 槻 集 |
| 坂本 登希夫 高知 |
| 九十九の誕生日も昨日のつづき朝の薬七錠呑みおわりたり |
| 九十九の吾を産みくれし母よ母よ三十七で逝きましにけり |
| 身体弱き母に七輪でこんにゃくをよく温めさせられき思う |
| 支那ビルマの六年四月の戦場で母の遺影を腹につけおりき |
| 戦闘で無事なりし夜は鉄帽にローソク立て母の遺影を拝がみき |
| 介護保険納付に気負い炭焼きぬ金属音するを窯より出しき |
| 障害施設へ帰園の子をバス停に送る十ケ月後の百までは大丈夫ぞと言い |
| 竹中 青吉 白浜 |
| 「北鮮の五月は白き花の香に満つ」と詠みたるアララギ会員ありき |
| 北鮮の風物詠みし田中四郎戦死数十日前なれば惜しまる |
| 楽浪の王女の柩黒檀にて幼き遺骸のあと形とどむ |
| 牡丹台楽浪遺跡の案内人平壌の友のその後を知らず |
| 妓生(キーサン)に二上り新内習うのが自慢の社長の金切声も |
| ミサイル一つの価○億なれば易やす発射出来るものかよ |
| 打揃う隊列行進マスゲーム空腹に耐えかねているが大半 |
| 安藤 治子 堺 |
| いと小さき撥の形に萌え出でて公孫樹は風にそよぐべくなりぬ |
| 一木(ひとき)一木めぐりて花に面寄すまた見ん春の頼み難なく |
| 面あげて顎あげてなお見え難し頂き嬉し風にゆらげる |
| 雨季に向かうトベラは数多蕾持てり雨に匂わんその花待たる |
| 小梅あまた年々になる紅梅を今年探れど触るる実の無し |
| 朝の庭めぐりて石に腰おろすなお暫くを子の保つ庭 |
| 若萌の息吹は老の身に厳し触れし手に指に発疹のあり
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| ■ 推奨問題作 (5月号から ) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 一杯(ひとつき)を毎夕溜めた米炊きて吾が遠足に母は持たせし |
| 脇本 ちよみ |
| 五十四で逝きし弟の残したる甥と姪とが血縁にして |
| 荒井 比佐子 |
| 九十九の入浴にヘルパー三名が脱衣室にて待つにとまどう |
| 坂本 登希夫 |
| 惚けたる母と問答は片道にて昔の事のみ聞かされている |
| 坂本 芳子 |
| 暖房の炕(カン)焚く十三億の出す排煙黄砂と共に大気よごさん |
| 竹中 青吉 |
| あての無き散歩の我の人びとに混じり急ぎて信号渡る |
| 長谷川 令子 |
| 送迎のバス近づくに我に向き一緒に行くかと夫の声かく |
| 林 春子 |
| 祖母の手に南京の如く抱かれたる写真一枚久々に見る |
| 春名 重信 |
| 一機また一機目で追い日を送る航路のしたの病院に臥し |
| 東山 葉子 |
| 土かたき庭に剪りとる水仙の茎より水の雫して落つ |
| 松内 喜代子 |
| 南向く窓を作らぬ庫裏に住み冬の日差しを外に出でて知る |
| 山内 郁子 |