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選 者 の 歌 |
桑 岡 孝 全 大阪 |
今年初めて髪より汗のしたたると追い書きをして日記を終る |
保管庫を兼ねる「ゴミ箱」なるを知るパソコン使用暦は十年 |
街上にていただくティッシュの漸滅す日本経済消長の指標 |
晩年に母の纒いしアッパッパ関西発の呼称なるらし |
馴到強いらるる彼等なり就職活動向けの笑顔というも教わり |
高 槻 集 |
高間 宏治 小金井 |
同期会の幹事勤める二十余年今年集いしは僅か六人 |
外出不能病院の予約妻の介護欠席の理由も寂しくなりぬ |
敗戦後海兵より横滑りせし級友に変節と言いし友もありにき |
寮歌祭に母校と海兵両方の舞台に立ちし友もいまは亡し |
同期会熱心なりしが二年空白ののち娘御より認知症の知らせ |
認知症療養中の友孫の挙式に高砂謡う願い叶いしと |
寮歌遮り謡曲を披露せし二年前が想えば発症の時期になるらし |
鶴亀 佐知子 赤穂 |
ももいろのタンポポの種子送られて七十五歳の誕生日に植う |
僅かずつ夫の遺品を整理する昇進祝いの古き腕時計 |
亡き父が贈りくれたる中古品の時計を夫は終生使いき |
老母を半月振りに訪えば施設に小さく横たわりおり |
喉乾き水を欲しがる老母に起き上がる気力失せつつありぬ |
後髪ひかれつつとはこのことか二時間施設に母と過ぐし去る |
ケアマネになりたる娘より水分の補給大切と祖母を気遣う |
坂本 登希夫 高知 |
日々寝ねて食い注射受け治るまつ短歌を生き甲斐の九十九なり |
ながらえて九十九のわびしけれ尿もれをヘルパーに言われたり |
車椅子でつれ来られたる入浴場乗れるままヘルパに体洗わる |
頭洗うヘルパー体洗いくれる者いなくす早しあっけなきまで |
二十三名の歌のグループ今八名九十九吾の去るは何時なる |
食道でヘルパーが匙で食べさす男患者四名吾のみ箸使う |
食堂の会食の男女患者五十名九十九が最年長と聞きわびし
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■ 推奨問題作 (7月号から ) 編集部選 |
現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
九十九の誕生日も昨日のつづき朝の薬七錠呑みおわりたり |
坂本 登希夫 |
戦闘で無事なりし夜は鉄帽にローソク立て母の遺影を拝みき |
〃 |
みどり児を抱くわが孫面ざしのまこと母親らしくなりたる |
坂本 芳子 |
久しぶりに病みてわが摂る白粥の美味に驚く忘れいたりし |
篠木 和子 |
風強き今日おのずから舗道橋避けて迂回をする齢なる |
白杉 みすき |
物忘れのみならず炊事も洗濯も妻は自ずからせずなりゆけり |
高間 宏治 |
妓生(キーサン)に二上り新内習うのが自慢の社長の金切り声も |
竹中 青吉 |
九十七になりて初めて棄権せし母は残念と幾度も言う |
鶴亀 佐知子 |
働きの残る頭で考えようわれの老後は今ではないか |
鶴野 佳子 |
ときながく一人暮らせる友にして安らかなりし命終をきく |
春名 久子 |
雑木林にひともと咲ける辛夷あり吹き通りゆく風に動きて |
松田 徳子 |
二十歳まで育つかと祖父に言われたる我なりき今日百二歳半 |
吉富 あき子 |