|
|
| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 大阪 |
| 熱中症かしましき夏に格安のベトナム産の梅干を買う |
| 老人われ徘徊をする小公園は夜の風死して暑熱こもらう |
| 怠らず水分摂れと井戸四郎未亡人昨日言い今日医師が言う |
| われを責めて暑き夜の夢に挟み撃ち土屋文明土本綾子 |
| 熱中症と呼はざりし世を共に知る散髪店主とかたりあいたる |
| 高 槻 集 |
| 安藤 治子 堺 |
| 合同歌集喜び繰りて端なくも出ずる嘆きは亡き人の上 |
| 能登の海石見の山路共に歩み共に宿りし姿ありあり |
| 櫛の歯を引くが如しという言葉まざまざとして亡き師亡き友 |
| 厚生園の月例歌会花藪の懇親会五十年の記憶我れを酔わしむ |
| 五十年まなべばひとかどになるべきを我が歌の道何ぞ遅々たる |
| 鉛筆と紙さえあれば続け得る楽しみと怠りて過ぎし月日か |
| 鉛筆と紙は持てども眼廢い歌作り叶わぬ老いの来んとは |
| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 夕映の雲のすじ残るそら車窓にみえて広き川こゆ |
| 退け刻の人らにまじり帰りゆく今宵はいたく体つかれて |
| 法師蝉の啼くこえ聞かずこの年の盂蘭盆すでにすぎてゆきたり |
| 杖つかずいまだ歩めるを恃みとし出で来て舗装の段差に躓く |
| わが窓にせまる隣の庭木のなか青き実の垂る花梨のひと木 |
| 漸くにことしの暑さ衰えて西日残れる窓を閉ざせり |
| 思い出ずる夏の旅ひとつ榛名山にはじめてみたる節黒仙翁 |
| 土本 綾子 西宮 |
| 起き出でて踏み出す一歩に期待せりいくらか痛みのやわらぎいんかと |
| 階段の上り下り日に五・六たびこれがリハビリとひとりごちつつ |
| 四十日ぶりに見る庭灼くる日の下に直ぐ立つ葉鶏頭の朱 |
| 窓先の簾をゆらす風もなく昼闌けて蝉の声も止みたり |
| 向い家と隣りと我が家少しずつ色を違えて百日紅咲く |
| 磨ぎ汁に養いたりし庭苔も灼くる日差しに見る影もなし |
| 昼すぎてじりじりと灼くる日の下に半夏生白葉とならず枯れ伏す |
| ■ 推奨問題作 (9月号から ) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 外出不能病院の予約妻の介護欠席の理由も寂しくなりぬ |
| 高間 宏治 |
| 旅の鳥円安株高円高株安早口言葉に啼きてすぎゆく |
| 竹中 青吉 |
| フィリピン海戦戦士の詳報に高浪に消えた兵士もありし |
| 塚本 景英 |
| 老人用マンション3Fで案ずるは車椅子にて迎うる非常時 |
| 鶴野 佳子 |
| 病院より連れ帰りたる亡き母と今夜が最後と吾は横に寝る |
| 平岡 敏江 |
| それぞれの画面に興じるカップルよもっとお話しなくていいの |
| 安西 廣子 |
| この世なる物音を聞くなき君と思う今宵したたかに土を打つ雨 |
| 安藤 治子 |
| 吾が試歩は病棟廊下に飾られる弥富金魚の水槽までか |
| 奥村 道子 |
| 春彼岸それぞれに花供えらる戦記薄るる友等の碑にも |
| 金田 一夫 |
| 陽が落ちて帰りゆく吾を送る叔母夜の長きを嘆きて言えり |
| 坂本 芳子 |
| み齢は百五の義母を松江まできたり見舞いて手足をさする |
| 篠木 和子 |
| 日々寝ねて食い注射受け治るまつ短歌を生甲斐の九十九なり |
| 坂本 登希夫 |