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| 選 者 の 歌 |
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| 桑 岡 孝 全 大阪 |
| 打ち水効果もたらす雨の走る街に今日の心のいくばくか和ぐ |
| 病床六尺明治三十五年の記事ひとつ根岸の散髪屋扇風機据う |
| そこそこに吝嗇のひと発案のマーマレードか今朝も思えり |
| 新卒就職当初に靴を選びあやまち爪のひずみの今に残れる |
| 軽薄に世に処し来たりたまわりし恩を裏切りて終るあれこれ |
| 高 槻 集 |
| 山内 郁子 池田 |
| わが街の道おちこちに咲きたりし露草この頃みなくなりたり |
| ひらききる真白き蓮の花びらが水のおもてに暫くを照る |
| 筋雲がかみなり雲に入れ替り降りいずる雨庭土流る |
| 年老いる左官らの来て働けり茶髪の若き一人交じりて |
| 意味を知らず女学生にて唄いにし金甌無欠いま辞書にみる |
| 僧わが子の足袋の小鉤(こはぜ)の解(ほぐ)るるを急ぎ繕う暑き日中を |
| 悔むなき命をねがう赤々と染まりて今日を終うる雲見ゆ |
| 坂本 登希夫 高知 |
| ながらえて白寿の命の花あかり庭のこぶしの咲ききわまりぬ |
| 九十九が高齢の賞もらいたり十日草くいし戦場を思う |
| リハビリに患者ら合唱の「戦友」に涙いづ部下数多死なせし |
| 土佐と阿波の合同歌会に十六回参加くだされし楠瀬氏逝けり |
| 大兄と互に書きて二十余年文通せしを思い涙す |
| 四千発の花火の爆音に寝そびれて午前一時を寝返りくりかえす |
| 点滴の液の落つるは遅しおそし眠気こらえて吾はみており |
| 土本 綾子 西宮 |
| また一つ用を忘れぬ四十日の入院は脳を壊死せしむるや |
| 夢も見ず眠りてもなお足らぬごと朦朧として朝の一とき |
| 階段の昇降を日に七八たびリハビリリハビリと呟きながら |
| 腰病みて手入れ届かずなりし庭わがもの顔に草のはびこる |
| 四十日見ざりし庭の草長けてもはやわが手の及ばすなりぬ |
| 灼くる日の長くつづきて半夏生白葉とならず末枯れはじめぬ |
| 長雨のあがりてあくまで澄める空筋ひきて西にゆく一機あり |
| ■ 推奨問題作 (10月号から ) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 其々の部屋に籠りてスマホする居間のテレビは我独り見る |
| 並河 千津子 |
| 失いし体重2キロをスーパーの米袋手に測りてみたり |
| 林 春子 |
| 清掃の黒人女性床を叩く蛇口締めずに出でゆく人に |
| 佐藤 千惠子 |
| 入院の日の昼食に箸を忘れ鉛筆で食う饂飩が逃げる |
| 塚本 景英 |
| 心してきくは安定沃素剤原発事故50K圏内にわが住みて |
| 森田 八千代 |
| ヤンゴンに買いてパタゴに忘れにし帽子の行方未だに思う |
| 山内 郁子 |
| 十日だけ休みて逝ったと聞き及ぶよく働きし若き同僚 |
| 脇本 ちよみ |
| 屑籠にシュートの決まる日曜日なすべきことはなかなかにして |
| 芦北 紀子 |
| キャラバンを初めてはきて登りしは富士山なりきはたちの夏に |
| 大山 康子 |
| 久々に朝一番のバスを待つ日帰り出張せし日の如く |
| 奥野 昭広 |
| この造花に蝶が飛んで来るんだよ露店仏具の売り場のおっちゃん |
| 川口 郁子 |
| 四十年近くを住みて顔知らぬ人の喪にゆく雨に朝に |
| 黒川 理子 |