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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 |
| 昼間気温氷点下なるふるさとを報ずれば思う落ち延び得たり |
| どのように自転車を乗り習いしか次男の場合われ記憶せず |
| 半身の癈(し)いてパソコンも損じては鶴野佳子はひだり手で書く |
| 枯色の芦の間をゆく鴨のかず仔をともなえりレンズの視野に |
| ひとつのみ翔(かけ)る鴉はかたむける冬の日ざしを腹に受けたり |
| 高 槻 集 |
| 安藤 治子 堺 |
| 午どしは若く逝きにし兄の干支白髪の姿は思うよしなし |
| 北野中学のゲートルは旧陸軍式白脚絆朝(あした)登校の姿目に顕つ |
| ただ一人のはらからなりし亡き兄を夫より恋おしと思うことあり |
| 植本一夫さん夫と同郷同年にて徴兵検査共に受けしと |
| えとの歌など浅しと糺されし事ありき老は親しむ世のはかなごと |
| 湯上りの面を晒す庭の夜気海遠くなりて汐の香の無し |
| 波の音も汐の香もなき闇の彼方埋立地に操業のかそけき響き |
| 坂本 登希夫 高知 |
| 百歳の初日拝むと庭に出で南天と蠟梅を背に雲切れる待つ |
| 衰うる足のはがゆし松葉杖を小脇に百歳の初日をまちぬ |
| 雲切れし初日はまぶし人手借らず一年を過ごさせたまえと祈る |
| 百歳が初日拝み思うなり六年余支那ビルマの戦場生きこしを |
| 一緒に征きし工兵伍長五名ビルマで四名戦死生還は吾れのみ |
| 正月の餅を兄は杵どり弟が搗く九十九吾れは椅子に掛け指図 |
| 兄弟が搗きし餅歯ざわりよし米は宮中でも作る満月糯か |
| 竹中 青吉 白浜 |
| 日系の満州国人として十年祖国日本を内地といいて |
| 無意識に内地とよびて憚らず植民地気分恣にして |
| 国務総理鄭孝胥の願いしりぞけて本音露骨にためらいのなし |
| 満州国の先祖はの問いに天照と書けばと合格満州人の生徒たち |
| 三十六歳満州国総務長官岸信介筆頭にして皆若かりき |
| 安倍首相岸信介の孫なればかわりばえなしまた国民も |
| 国民の反対するを押切りて可決いそぐ政権悲しき政府 |
| ■ 推奨問題作 (1月号から) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 車椅子に押され産室を見舞いたり髪さえ生いて眠るみどりご |
| 安藤 治子 |
| 勤めもつ娘は忙しく過ごすのかこの秋庭の花の少なし |
| 大山 康子 |
| 生ワクチン接種児童は少数派われにひとよの障害残る |
| 形部 賢 |
| 娘の捨てし器を拾いくる夫も吾と同じき捨てがたき齢 |
| 坂下 澄子 |
| 木犀咲く家出で二度目の入院に衰うる九十九の足で車に乗りぬ |
| 坂本 登希夫 |
| 洋なしを好みし母に供えんと大きめ選ぶ据わりのよきを |
| 篠木 和子 |
| ベランダにこの朝早く飛び来たるせせり蝶あり日は暑きまま |
| 白杉 みすき |
| 幼くて北斗七星教わりき父と歩みしひもじき夜に |
| 鈴木 和子 |
| 今朝は来ずマンママンマの孫一歳熱が出たとか婆さんふて寝 |
| 塚本 景英 |
| わが声の張りも響きも衰えて補聴器こばむ夫に届かぬ |
| 林 春子 |
| 乾燥し片付いている朝の流し散らかす者なき二人の暮らし |
| 松内 喜代子 |
| 控えめに経る年つきの儚きに夜空へ大き欠伸してみる |
| 山内 郁子 |