![]()
|
選 者 の 歌 |
桑 岡 孝 全 |
春立ちて吹くさむき風店頭にならぶ雑誌をひるがえす見ゆ |
新都知事風悪相のマスターが声音やさしくコーヒー淹れる |
鷹揚にあしらいくれる茶房あれば退屈な歌書を読む一時間 |
いまをときめく百四十氏の四千首読みなずみつつ返却期限 |
ウッキシリなどと聞えて朝の野に犬引ききたる人の嚏(くさめ)す |
高 槻 集 |
鶴亀 佐知子 赤穂 |
雪に埋もれて味わい甘くなると言う春待ち人参春を待つなり |
ひとり住む老人として台帳に夫亡き後のわが名を記す |
独居吾に安心コールを勧めらるいざと言う時押せるだろうか |
積りたる雪の中より水仙のようやく陽を浴び立ち上り咲く |
コルセット作りて付けて歩きみる夫と散歩せし宮までの道 |
リハビリと身に言い聞かせ橋を越ゆ踏む自転車のペダル危うく |
珍しき雪わが瀬戸内に積りたり雪国の苦労一日味わう |
芦北 紀子 大東 |
たいらかな心戻れと時ながく銀の鎖を磨く夜なり |
書き終えた書類の束を揃えつつ鼻で歌いぬラ・ヴィアンローズ |
思いいずる父の生家に鳥かごを編むと削りし竹ひごありき |
プリムラの花の窪みに蕊かこみ昨夜の雨が残りて澄める |
なめくじの通りし跡かラベンダーの鋸葉を縁取る銀色のあり |
エアコンの吹きだす風に粉雪が乱れ飛ばされ空に戻りぬ |
このあたり菫が去年は咲いていたかがんで確かむ石の継ぎ目を |
伊藤 千恵子 茨木 |
朝よりそら濁れるも心憂し汚染物質の流れきたるや |
パン焼ける匂い漂う町の角夕べ灯ともすベーカリーあり |
勤め終え帰る人らに混む車内優先座席につつましくいる |
妻君亡くひとり住みたる君偲び長岡京のまちすぐ今日は |
わが家に泊り日展観にゆきし夫の友なりき共に世になし |
亡き君の水彩画集川の景を多く描くにこころ安らぐ |
夕餉のあと童話ひとつ歌いたる君もわが夫も過ぎてはるけし |
■ 推奨問題作 (3月号から) 編集部選 |
現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
開戦を知らずにひとり魚を釣る父でありしを母は言いたり |
芦北 紀子 |
たまさかに登る四駆に割られたる椎の実食みにヤマガラの来る |
天ヶ瀬 倭文子 |
義足つけ歩けるように頑張ると真向きな手紙友より貰う |
伊勢谷 征子 |
電装にわが関わりしタンカーなり今石油備蓄に用いるらし |
奥野 昭宏 |
ゴンドラに乗りて窓ふく若者と視線あいたるビル十五階 |
形部 賢 |
大粒のはっさく実るこの一木農をやめれば切られてしまう |
春名 久子 |
一緒に征きし工兵伍長五名ビルマで四名戦死生還は吾れのみ |
坂本 登希夫 |
髪のない頭を撫でてやるうちに安らかに眠りゆく弟よ |
沢田 睦子 |
世界には糖尿病患者二億四千万日本国の我が家にも二人 |
塚本 景英 |
ご苦労を眺めて思うヘルパーは私には無理教師はできても |
鶴野 佳子 |
欠かすなく風呂立てくれし夫の残す柄長きブラシどう扱いし |
南部 敏子 |
十夜会(じゅうやえ)に詣ずる人に法話する子の声まさに夫と同じき |
山内 郁子 |