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| 選 者 の 歌 |
| 桑 岡 孝 全 |
| 思い一途に努むるおみなのとうときを時に知り得しわが八十年 |
| ユーゴの人身長一五〇糎に足らざりという修道女テレサの場合 |
| 家びとに所在を秘して癩の島に勤務せしナースをも吾は知る |
| 日生(ひなせ)より汽艇(ランチ)にはこばれ愛生園に一泊の大村先生に随伴 |
| いとしき人戦火に失せて病者らにひと生ささげし奥村良子 |
| 高 槻 集 |
| 春名 久子 枚方 |
| 連休あけの医院の混みて車椅子に乗りたる人の居眠りいます |
| 白色の花の咲きたる花水木植えにし夫の見ることのなし |
| 綻びを縫わんとするにスタンドの明かりの下に糸の通らず |
| 節高き指に貼らるる膏薬の絶ゆるなかりし姑(はは)思う今日 |
| 酒を飲む父を厭いし日のありき事業の失敗紛らせいしか |
| 腰痛は或る日突然発症し先の約束出来ずなりたる |
| 旗振りて孫征かしむる事無きを願いて今朝の時事欄を読む |
| 山内 郁子 池田 |
| 己が父の忌日に命終迎えたき母の願いの叶いしおもう |
| 午後に倒れて翌朝の梵鐘の音と共に瞑(めつむ)りし母水無月なりき |
| 長生きはしたくないのを口癖に六十五にて浄土へ還る |
| 隣村(りんそん)の寺より嫁ぎ来し母は寺家の心得常に諭しき |
| 念仏を小声に唱え大公孫樹(おおいちょう)の葉を寄する母の後姿(うしろで)浮かぶ |
| 母の歳を遥かに越えて淡つけきわが生き方を嘆き給うや |
| ナツツバキ落つるを日毎手に拾う母の五十回忌近づく夕べ |
| 山田 勇信 兵庫 |
| 行き交える人影の無く病棟は空気淀みぬ黄金週間 |
| 八十のわれを十年十五年生かすぞとわが治療チームは |
| 心臓のバイパス手術の成れる朝恐る恐るに肋骨に触る |
| 十二時間のバイパス手術を凌ぎえてただに見上ぐる窓外の初夏 |
| 十二時間の麻酔醒めたりもうろうと聞く人の声生身の声ぞ |
| リハビリの指示に戸惑い足摩りて前に進みぬ術後二日目 |
| 生き延びて嬉しかりけりこの生命わがものならず守りつづけな |
| ■ 推奨問題作 (6月号から) 編集部選 |
| 現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
| 五十年自転車通勤の亡き夫は思えばいつも中古車だった |
| 鶴亀 佐知子 |
| 前の籠にその家族など思いみるレジの長きに並ぶ夕べを |
| 長谷川 令子 |
| 柚子の木に残れるままの大き実を採る人のなく今日は立春 |
| 春名 久子 |
| 亡き母に教わりしままじゃが芋を二つに切りて灰まぶし植う |
| 平岡 敏江 |
| 一キロのくぎ煮に添えて送りくる姉が手編のくつ下ピンク |
| 森口 文子 |
| 原発事故は他所(よそ)事ならずわが町も安定ヨウ素剤配らるる記事 |
| 森田 八千代 |
| 洗髪の湯の耳に入りよみがえる夏休み水泳教室の喧騒 |
| 安井 忠子 |
| 石くれの柳生街道踏みなずむ八十三の先生とゆく |
| 天ヶ瀬 倭文子 |
| 気づかずに経たる年月夫と子の耳そっくりと言う人のあり |
| 安西 廣子 |
| 勤め終え帰る人らにわがまじり優先席につつましくいる |
| 伊藤 千恵子 |
| 疎開せん父の決断遅かりき家も家財も戦火に潰えき |
| 上野 美代子 |
| 梟かと問わるればそう見えてくるわたしの胸の猫のブローチ |
| 白杉 みすき |