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桑
岡 孝 全 |
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震災後三年を縷々報ずれば執念(しゅうね)しとしもおもう日のあり
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暁のつかのまの夢木先生顕ちいませるをのみ記憶して
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亡き父のうしろ姿を思わする人と乗り合う今日の市バスに
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その友にまじりて道をゆく妻の表情いたく疲れてありし
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著書表彰書画展好評の八十歳を歓びましてたちまちに亡し
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高 槻 集
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| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 妹の逝きて七日のはやく過ぎ心萎えこもる大暑の今日を |
| 病み臥せる日なくひと夜に世をへだつかかる別れを思いみざりき |
| われよりも六歳若く逝きし汝をただに哀しむ今夜寝ねむとして |
| 父ははの姉おとうとの齢こえ存えし汝の八十三歳 |
| その夫の逝きて七年となる夏を卒然として妹は亡し |
| 亡き汝を嘆かいすぐる日の朝をことしはじめて聞く蝉のこえ |
| 秋くれば海べのホテルにあそばんと約せしことの今に空しも |
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| 角野 千恵 神戸 |
| スーパーの改築工事の正面に七夕の今日笹飾り立つ |
| 駅一つ電車で来たるスーパーの広き売り場に早く疲るる |
| しばらくの夕凪おわり部屋うちに涼しき山の風ながれくる |
| 階段の下の物入れ風とおす奥の箱までみな取りだして |
| 木工を好みし夫の鑿鉋(のみかんな)使う人なく捨つるほかなし |
| 日をかけて子の人形に木の家を楽しみ作る夫若かりき |
| 押入れに吊るすままなる布袋御国旗なる染め文字のあり |
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| 竹中 青吉 和歌山 |
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| 白樺の林に鈴蘭の花咲くなど戦に行くに誰が思いし 北方戦線 |
| 二日余り白樺林を通り過ぎ戦とは歩くことと知りにき |
| 傘型に編隊を組む鳥の群れわたりゆくのか渡りて来しか |
| わが部隊到着するや事変終る俄雨すぎてうるむ夏空 |
| 霰混る俄雨すぎて涼しくなりぎらぎらと輝く七月の太陽 |
| 今になお鈴蘭の花にはっとする七十余年の月日経るとも |
| 行きゆきて白樺林鈴蘭の花見ることは見きグロッキーの目に |
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| 湧 水 原 (49) 伊藤千恵子 選 |
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| 森本 順子 〈高原へ〉 |
| 筒鳥の声を遠くに聞きながらレンゲツツジの高原巡る |
| 樹齢五百年なる桂苔むしてその根方よりあふれ水湧く |
| 湧水のたぎち行く川その岸に香りの高き山三葉積む |
| 朝まだき雪の如くに山鳴らしの白き綿毛が草原に舞う |
| 湧水にうるおう園は梅花藻が流れにそよぎ座禅草咲く |
| 軒下に吊るす餌台コガラ来てヒマワリの種くわえ飛び立つ |
| にごりたる念仏池に二つ三つ小さき波紋水の湧くらし |
| 霧立たば鐘を鳴らして登山者に所を知らす小さなる塔 |
| 子を孕む牛が足折りのんびりと反芻しつつ日を浴びている |
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| 佐藤 千恵子 〈奈良をゆく〉 |
| 火難くぐり黒く輝よう薬師像衣にかすかに金箔残る |
| 肩まろく頬に手を置く弥勒像逗子明るきにほのぼのおわす |
| 落剝の金剛力士の阿形の面残れるベンガラ怒りを増せり |
| 回廊の連子窓より差し込める光は筋の影を落とせり |
| 半眼にみおろし立たす観音像み足は剥げて木目浮きたつ |
| ぬかるみを避けつつ朝の散歩せり鴎尾のまぶしき朱雀門まで |
| 神杉の大樹に三人腕を当つ足下に小さきひこばえ出でて |
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■ 推奨問題作 (8月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| ベランダの避難梯子の二十年上り降りなくあじさいの凭る |
| 林 春子 |
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| 物言わず一人住まいぬ自らの耳の癈うるを時にわすれて |
| 森口 文子 |
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| 午後に倒れて翌朝の梵鐘の音と共にめい瞑(めつむ)りし母水無月なりき |
| 山内 郁子 |
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| 十二時間のバイパス手術を凌ぎえてただに見上ぐる窓外の初夏 |
| 山田 勇信 |
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| 行動の範囲自ずと狭くなり培う花の種類ふえたり |
| 角野 千恵 |
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| 消費税アップの前のまとめ買い焼酎五本どこへ仕舞おう |
| 川口 郁子 |
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| 村道の工事に付ける警備員田に往く吾に白旗をふる |
| 川中 徳郎 |
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| 星空の芝生に集うコンサートこいのぼりにも光をあてて |
| 北 容子 |
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| 松葉杖つくは人目に危うきかたびたび声をかけていただく |
| 形部 賢 |
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| 厚手のねくたいぎゅっと締める院長に狭心症吾百まで生きかさる |
| 坂本 登希夫 |
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| 認知症専門なる子の意見載る新聞を貰う母の日 |
| 沢田 睦子 |
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| 芍薬の蕾完璧球体を愛でる蟻かも巡りにめぐる |
| 中道 英美子 |