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桑
岡 孝 全 |
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台風のもたらす降雨一昨日来千ミリと聞くよ土佐の友らよ
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四階のひろき個室に管数本纏う九十の兄の笑まえる
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食材のカロリー値などそらんじて摂生する甥六十五歳
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ななたりのうからの物を一人して手に濯ぐほかなかりし母か
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わが大阪那覇より暑きを予報する夜のラジオにあきれている
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| 高 槻 集 |
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| 川中 徳郎 宮崎 |
| 新しきbうつわ買い来て古きもの捨てよと娘は妻に念押す |
| 集落の級友みんな亡くなりてのこりて田を鋤く果報を思う |
| 二十キロの肥料を担い一歩二歩老いの力を試して登る |
| ミンミン蝉昼を聞きたる栗園に夕べ勢い法師蝉鳴く |
| 降るそばえ杉の木の間に霧らいつつ大粒小粒煌めきて落つ |
| 土石流に家潰れしは六十四年前広島の惨余所事ならず |
| 背戸は崖前は小川の危険地区雨降る度に心休まず |
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| 坂本 登希夫 高知 |
| 眠うなった眠るとこの病院で妻逝きし昭和六十三年七月十日 |
| 太腿の静脈より心臓近くまで管通し点滴されいし手術後の妻 |
| 採尿採血心電図をとられ百歳吾の入院のひと日始る |
| お父さんそっくり百のお兄さんと呼ばれる病院家よりよし |
| 三十八度の熱にへこたれ百歳が氷嚢して抗生剤の点滴 |
| 歩けぬと菩提樹下に坐し涙する兵に工兵班長吾すべのなかりし |
| 十二日草食い俳徊せしビルマの密林黍畑に出し日を思う |
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| 西川 和子 広島 |
| 迂回路のバスの窓より目に入りて土石流の運びたたる嵩 |
| 三車線道路の一車線を占めて緊急車両の隊列続く |
| 一夜明け家に帰れば留守電に残されし声数多溢れて |
| 何十年振りに吾が聞く友の声大丈夫ですか噫無事ですか |
| 仮初めの縁にあらず災害を案じ下さる電話のお声 |
| 雨予報に吾が町の名も揚げられて避難勧告避難指示出さる |
| 上空を頻りに飛び交うヘリの音小止みの雨の降り出す気配 |
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■ 推奨問題作 (9月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 母よ母よ逝きて思いぬ何につけても同志でありし苦労の昔 |
| 坂本 芳子 |
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| 楓の木に目白忙しく移りいて朝さわやかにわが命生く |
| 山田 勇信 |
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| 見かけより容易ならざる松葉杖十歩あゆみて帰りを案ず |
| 天ケ瀬 倭文子 |
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| 冬陽受け風にさらされ大根は吾が腕よりも皺の増えたり |
| 金田 一夫 |
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| 胡瓜は手を西瓜は敷草欲る気配明日から田植えしばらく待てよ |
| 川中 徳昭 |
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| 隣席は法律学ぶ学生か素顔にて読む朝日訴訟判決 |
| 北 容子 |
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| 遠くよりスマホに探し店に来て夏のスーツを誂えくれぬ |
| 武田 壽美 |
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| 目を瞑り仰臥の日々の多くなり激しき言葉もはや聞けぬ母か |
| 鶴亀 佐知子 |
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| 右半身麻痺して障害度第一種第一級最高度の障害者です |
| 鶴野 佳子 |
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| 名簿順に着席させて本ノート確かむる習いここは大学 |
| 中道 英美子 |
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| IPSの治療かなう日なお遠くテレビに近く夫の椅子置く |
| 林 春子 |
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| 何ごとも一人で出来て元気なる母は孤独に苛まるるらし |