平成26年11月号より

 

   選     
     桑 岡 孝 全           
   台風のもたらす降雨一昨日来千ミリと聞くよ土佐の友らよ
  四階のひろき個室に管数本纏う九十の兄の笑まえる
  食材のカロリー値などそらんじて摂生する甥六十五歳
  ななたりのうからの物を一人して手に濯ぐほかなかりし母か
  わが大阪那覇より暑きを予報する夜のラジオにあきれている
  高 槻 集
  川中  徳郎     宮崎
  新しきbうつわ買い来て古きもの捨てよと娘は妻に念押す
  集落の級友みんな亡くなりてのこりて田を鋤く果報を思う
  二十キロの肥料を担い一歩二歩老いの力を試して登る
  ミンミン蝉昼を聞きたる栗園に夕べ勢い法師蝉鳴く
  降るそばえ杉の木の間に霧らいつつ大粒小粒煌めきて落つ
  土石流に家潰れしは六十四年前広島の惨余所事ならず
  背戸は崖前は小川の危険地区雨降る度に心休まず
  坂本 登希夫     高知
  眠うなった眠るとこの病院で妻逝きし昭和六十三年七月十日
  太腿の静脈より心臓近くまで管通し点滴されいし手術後の妻
  採尿採血心電図をとられ百歳吾の入院のひと日始る
  お父さんそっくり百のお兄さんと呼ばれる病院家よりよし
  三十八度の熱にへこたれ百歳が氷嚢して抗生剤の点滴
  歩けぬと菩提樹下に坐し涙する兵に工兵班長吾すべのなかりし
  十二日草食い俳徊せしビルマの密林黍畑に出し日を思う
  西川  和子     広島
  迂回路のバスの窓より目に入りて土石流の運びたたる嵩
  三車線道路の一車線を占めて緊急車両の隊列続く
  一夜明け家に帰れば留守電に残されし声数多溢れて
  何十年振りに吾が聞く友の声大丈夫ですか噫無事ですか
  仮初めの縁にあらず災害を案じ下さる電話のお声
  雨予報に吾が町の名も揚げられて避難勧告避難指示出さる
  上空を頻りに飛び交うヘリの音小止みの雨の降り出す気配
   
              ■  推奨問題作   (9月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
  母よ母よ逝きて思いぬ何につけても同志でありし苦労の昔
    坂本  芳子
  楓の木に目白忙しく移りいて朝さわやかにわが命生く
    山田  勇信
  見かけより容易ならざる松葉杖十歩あゆみて帰りを案ず
    天瀬 倭文子
  冬陽受け風にさらされ大根は吾が腕よりも皺の増えたり
    金田  一夫
  胡瓜は手を西瓜は敷草欲る気配明日から田植えしばらく待てよ
    川中  徳昭
  隣席は法律学ぶ学生か素顔にて読む朝日訴訟判決
    北   容子
  遠くよりスマホに探し店に来て夏のスーツを誂えくれぬ
    武田  壽美
  目を瞑り仰臥の日々の多くなり激しき言葉もはや聞けぬ母か
    鶴亀 佐知子
  右半身麻痺して障害度第一種第一級最高度の障害者です
    鶴野  佳子
  名簿順に着席させて本ノート確かむる習いここは大学
    中道 英美子
  IPSの治療かなう日なお遠くテレビに近く夫の椅子置く
    林   春子
  何ごとも一人で出来て元気なる母は孤独に苛まるるらし    

     堀   康子

 

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