平成26年12月号より

 

    選     
              
 桑 岡 孝 全   
 乗馬への招待というリーフレットわがポケットに一先ず収む
 小学三年より男女別学の二学級人数などは記憶になくて
 昭和二十年代の学業わがごとく先生がたも着たきりすずめ
 妻豹変仔育て中と知り得たる野良猫のため餌をととのえる
 仔育てをする野良猫に給餌する妻がいう近隣には口外無用
  高 槻 集
  安藤  治子     堺
 なきがらの未だ残れる御嶽の山頂は今朝凍れりと聞く
 伴いて五木(ごぼく)を草花を教えくれし君なりき正調オンタケサンも
 磐梯山には独り旅にて登りにき砂礫のなだり凄まじくして
 タオル口に押し当て噴煙を横切りき恐るる心持たぬ齢にて
 第二歌集出さず忽ちに君逝きき決めいし歌集名は山に関わる
 何も彼も打ち捨て怠りいたき心現(うつつ)には楽しきこと無くなりぬ
 棄教迫りバードレを逆さ吊りせし火口ありきまだなにごとか起こらん予感
  長谷川 令子     西宮
 幼らと土筆摘みにし土手なりき走る車輛も町も変わりて
 山道を共に歩みし日ははるか今車椅子の友の入院
 車椅子の数人集う快復室日差し明るく話し声なし
 昨夜見たる勝負はもはや忘れしと阪神ファンの友の虚ろに
 余すなく老い映し出す鏡の前お元気そうと声をかけらる
 虫鳴かぬと訝しみにし祖母思う我が聴覚も衰えきたる
 悔い悩み憤りなど何もかも諦めとして睡魔に沈む
  春名  久子     枚方
 晴るる日の迎賓館の参観者多くいますに只静かなり
 広げ置く手提袋は音のなく金属探知機の上滑りたる
 無人売りいつも収支の足らざるを笑い居たりし兄の世になし
 台風の過ぎたるあとに冬瓜のひとつ目を引く葉の末枯れ来て
 妹と蛍を見にし夜の遠く里川はいま乏しく流る
 呼び出しの電話に母の声ありき嫁げるわれを案じ給いて
 曇る日を人に会いたく苑にきてブランコを漕ぐ少女みている
   
              ■  推奨問題作   (10月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 亡き汝を嘆かいすぐる日の朝をことしはじめて聞く蝉のこえ
    伊藤 千恵子     
  
 散歩して頭冴ゆるかリヤトリス・グロリオサなど花の名言える
    奥嶋  和子
 この年は気候不順に負けもせずよろめきつつも躓きもせず
    金田  一夫
 単車の尾灯点かぬをいいて切符切る声優しきは孫ほどにして
    川中  徳昭
 人工の海水の中すこやかに泳ぐ魚類の短命という
    黒川  理子
 久々の散歩はここまで道のりを思いて帰る来ただけのみち
    坂下  澄子
 亡き父にそっくりとヘルパー言う吾にも女孫ありしが事故死
    坂本 登希夫
 いま少し生くる命を願いしが花見をせずに母逝く弥生
    坂本  芳子
 白樺の林に鈴蘭の花咲くなど戦に行くに誰が思いし
    竹中  青吉
 傷痍軍人駅に溢るる敗戦後その駅ごとに私は泣いてた
    鶴野  佳子
 「歩き方変だよ背中曲がってる」知っているけど疲れているの
    中道 英美子
  受話器置き言い忘れしを思い出づ一人暮らしのわれの饒舌
   長谷川 令子
  

    

 

                     ホームページに戻る