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桑
岡 孝 全
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乗馬への招待というリーフレットわがポケットに一先ず収む
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小学三年より男女別学の二学級人数などは記憶になくて
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昭和二十年代の学業わがごとく先生がたも着たきりすずめ
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妻豹変仔育て中と知り得たる野良猫のため餌をととのえる
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仔育てをする野良猫に給餌する妻がいう近隣には口外無用
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| 高 槻 集 |
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| 安藤 治子 堺 |
| なきがらの未だ残れる御嶽の山頂は今朝凍れりと聞く |
| 伴いて五木(ごぼく)を草花を教えくれし君なりき正調オンタケサンも |
| 磐梯山には独り旅にて登りにき砂礫のなだり凄まじくして |
| タオル口に押し当て噴煙を横切りき恐るる心持たぬ齢にて |
| 第二歌集出さず忽ちに君逝きき決めいし歌集名は山に関わる |
| 何も彼も打ち捨て怠りいたき心現(うつつ)には楽しきこと無くなりぬ |
| 棄教迫りバードレを逆さ吊りせし火口ありきまだなにごとか起こらん予感 |
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| 長谷川 令子 西宮 |
| 幼らと土筆摘みにし土手なりき走る車輛も町も変わりて |
| 山道を共に歩みし日ははるか今車椅子の友の入院 |
| 車椅子の数人集う快復室日差し明るく話し声なし |
| 昨夜見たる勝負はもはや忘れしと阪神ファンの友の虚ろに |
| 余すなく老い映し出す鏡の前お元気そうと声をかけらる |
| 虫鳴かぬと訝しみにし祖母思う我が聴覚も衰えきたる |
| 悔い悩み憤りなど何もかも諦めとして睡魔に沈む |
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| 春名 久子 枚方 |
| 晴るる日の迎賓館の参観者多くいますに只静かなり |
| 広げ置く手提袋は音のなく金属探知機の上滑りたる |
| 無人売りいつも収支の足らざるを笑い居たりし兄の世になし |
| 台風の過ぎたるあとに冬瓜のひとつ目を引く葉の末枯れ来て |
| 妹と蛍を見にし夜の遠く里川はいま乏しく流る |
| 呼び出しの電話に母の声ありき嫁げるわれを案じ給いて |
| 曇る日を人に会いたく苑にきてブランコを漕ぐ少女みている |
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■ 推奨問題作 (10月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 亡き汝を嘆かいすぐる日の朝をことしはじめて聞く蝉のこえ |
| 伊藤 千恵子 |
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| 散歩して頭冴ゆるかリヤトリス・グロリオサなど花の名言える |
| 奥嶋 和子 |
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| この年は気候不順に負けもせずよろめきつつも躓きもせず |
| 金田 一夫 |
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| 単車の尾灯点かぬをいいて切符切る声優しきは孫ほどにして |
| 川中 徳昭 |
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| 人工の海水の中すこやかに泳ぐ魚類の短命という |
| 黒川 理子 |
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| 久々の散歩はここまで道のりを思いて帰る来ただけのみち |
| 坂下 澄子 |
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| 亡き父にそっくりとヘルパー言う吾にも女孫ありしが事故死 |
| 坂本 登希夫 |
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| いま少し生くる命を願いしが花見をせずに母逝く弥生 |
| 坂本 芳子 |
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| 白樺の林に鈴蘭の花咲くなど戦に行くに誰が思いし |
| 竹中 青吉 |
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| 傷痍軍人駅に溢るる敗戦後その駅ごとに私は泣いてた |
| 鶴野 佳子 |
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| 「歩き方変だよ背中曲がってる」知っているけど疲れているの |
| 中道 英美子 |
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| 受話器置き言い忘れしを思い出づ一人暮らしのわれの饒舌 |
| 長谷川 令子 |
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