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桑
岡 孝 全 |
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捉えんとする衝迫より放たれて鳴く蝉に対すわれや八十
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地(つち)を擦るごとく飛ぶ蛾のふたつみつまどかなる月の光に
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| 文化教室廊下に出会うジャンパーにリュックの坪内稔典先生 |
| 秋涼の到りて老いは昼を寝(い)ぬ過ぎにし人を夢にみながら |
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皆既蝕すぎてひかりのかえりくる宵の月あり刈田の上に
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高 槻 集
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| 坂本 登希夫 高知 |
| 写生写実を信条として八十年生甲斐に歌を作り来りぬ |
| 中之島会館の花藪出版会始めて大村氏に会いき緊張して |
| 会員集めに土佐へ来られし大人(うし)のため炭と昼の弁当持ち旅館に訪いき |
| 佩用を憚る勲賞勲七等は六年十月(とつき)の従軍の証し |
| 青色(せいしょく)勲七等の勲章は敵前架橋要塞破壊で得しなり |
| 分隊長を五年勤めしビルマ戦場共に伍長五名征き四名戦死 |
| 英軍捕虜作業の重材料運搬で不具者となり吾れは帰還す |
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| 山内 郁子 池田 |
| 百日紅(ひゃくにちこう)の花の褪せたる庭を吹くあしたの風に秋を思いぬ |
| 読みさしの本開けしまま居眠りぬ家に籠りて午後ともなれば |
| 庭土に鴉の雛を埋めやりてオシロイバナを挿ししが根づく |
| つむじ風われの心を騒立てて蓮根(はすね)の煮物焦がしてしまう |
| 庭を踏むわが靴にきて蜆蝶の止まりしほかは今日事のなき |
| 骨密度はかりて医師は以前より好転せりと微笑み給う |
| 仏飯(ぶっぱん)の御下がり得んと御堂の前雀きている常より多く |
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| 安藤 治子 堺 |
| 明日より植木屋さんの入ると聞き伐られん木々を庭に触りゆく |
| 木犀の香りを今年覚えざりき木の衰うか身の衰えか |
| 北摂の池田細川は植木所木犀の香に立てば思ほゆ |
| 秋の陽が等身大のわが影を土に写せば生きて嬉しも |
| 檀の実色づくは未だ一枝と嫁の手を添え引き寄せくれぬ |
| 我が頼む櫨の一群も朱淡きまま伐られて株となるのか |
| 舅(ちち)君の好み据えましし庭石に泥みて歩む老いの来んとは |
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■ 推奨問題作 (11月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 父逝きし暑き日に似る今日の空み墓に水をまいらせている |
| 脇本 ちよみ |
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| 全身でもの言いておりスタッフに応える夫の声の大きく |
| 安西 廣子 |
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| いわけなき少年兵等家に来て御飯頬張る姿忘れず |
| 伊勢谷 征子 |
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| 集落の級友みんな亡くなりて残りて田を鋤く果報を思う |
| 川中 徳昭 |
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| 介護車に送られて帰る車椅子の伯母九十九痩せたまいけり |
| 佐藤 千恵子 |
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| 十二日草食い俳諧せしビルマの密林黍畑に出し日を思う |
| 坂本 登希夫 |
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| 白き箸もて拾う母小さく戦地を走りし父の半分 |
| 坂本 芳子 |
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| 死にたしと言う老母は九十八生かされてある感謝も述べて |
| 鶴亀 佐知子 |
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| 坪庭に野菜培いまめまめしき義母に肝への転移のありぬ |
| 中道 英美子 |
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| 時かけて蕗の葉を煮し姑思う葉つき蕗を買う術のなく |
| 長谷川 令子 |
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| 覚えなきブレザーを着て久々に夢に顕(た)ちたる夫の笑(え)まいぬ |
| 板東 芳美 |
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| 流れ着きし椰子の実の如この寺家に縁のありてわれの存う |
| 山内 郁子 |