平成27年2月号より

 

 
    選     
 
     桑 岡 孝 全           
 相似たるよわい羞(やさ)しく重源は狭山池改修の折八十二
 小主観を言うなく対す千四百年をたもちたもちし堤の断面
 平野郷までを潤す狭山池の水をパノラマに見て声を呑む
 記起の代の大溜池の堤より秋天下(しゅうてんか)なるハルカスを見る
 
   高 槻 集
   長谷川 令子    西宮
 鉦叩きの声を楽しみし遠き日よこの庭隅の暗きに出でて
 ネットにて再生試むる鉦叩きかの可憐なる声にはあらず
 大型のプランター覆う草の上オンブバッタの枯葉色せる
 残されし三輪車の上に散り積もる桜紅葉に夕光早し
 旅ゆくも叶わずなりて手をあわせ告ぐるは今日も一人居の愚痴
 老い知らぬ夫には解らぬこの鬱を抑えて庭の小菊を供う
 わが町にみ子らの住まぬ空き家増ゆ時に庭師の鋏音して
   春名  久子     枚方
 夏の日を遮りくれてようやくに末枯(すが)るる蔓に零余子(むかご)実らず
 米余りと聞く秋にして農を継げる髪白き甥に思いは及ぶ
 病室は四人部屋にて皺ふかき面して眠るいずれの人も
 時ながく会わざるいとこ枕もとの名札確かめ声をかけたり
 ヘルパーさん掃除したまう家の内人の気配に心のゆるぶ
 採決する看護士さんの手の震い血管細きわれは危ぶむ
 ゆっくりと歩を進めつつ自ずから腰に手のゆくこの日頃なる
   山内  郁子     池田
 秋の日の翳れる中をワレモコウ倒れて咲きぬ色深めつつ
 偶さかに外出(そとで)をせんと思うまに今日という日の暮れてしまいぬ
 わが仕種なべてもたつくこの日頃老々の身となれば詮無し
 庭中に置き忘れたる花鋏夜に入りて降る雨におもえり
 暖かき日のつづくなりツワブキの黄なる花群早々と褪す
 朝毎を本堂にわが読経する時刻このごろ定まりてきぬ
 腰板のやわらぐ今日は境内の無縁の塚に花供えゆく
   
              ■  推奨問題作   (12月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 何もかも打ち捨て怠りいたき心現(うつつ)には楽しきこと無くなりぬ
  安藤  治子
 曇る日を人にあいたく苑にきてブランコを漕ぐ少女みている
  春名  久子
 積年を一度だに父とよばれざりき垣より家を覗きて去りぬ
  遠田   寛
 今を撮る家族写真十二人みんないい顔夫は横向き
  川口  郁子
 芽の出でし大根一列土竜奴に土を盛られて今日が始まる
  川中  徳昭
 飛行機雲一生恐れて仰ぎにし祖母にてありき戦の後も
  黒川  理子
 百歳吾に首相が祝状下されしと百二十粁を子の来て知らす
  坂本 登希夫
 秋空にぼんやりと雲の日和よし孫は今年もかけっこべべたん
  坂本  芳子
 病院のベッドにすわり母の言う何処が悪いのいつ帰れるの
  中原  澄子
 病室を見失いしより詰所過ぐるひとり歩きを義母は躊躇す
  中道 英美子
 水害より連続無休の三週間女性職員の面輪やつれぬ
 西川   和子
 
 ごんぎつねの終り哀しく音読の宿題今日はなしと孫言う
  松内 喜代子

 

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