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桑
岡 孝 全 |
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停年後新築をして間をおかず下脇光夫肺炎に死す
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高野山登記所長でありし君と奥谷に咲く沙羅を見たりし
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| うつぶせとなりてベッドに息あえぐ友をただ見て居し夏真昼 |
| 下脇くん死にましたいたく簡明にあしたをはやく電話賜いし |
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生涯胸奥(きょうおう)におさむべし白浜歌会にて知るを得し愛恋ひとつ
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高 槻 集
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| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 電線に雀十数羽ならびたり年暮れんとして雨の降る窓 |
| 明日よりは休診となる年末の医院のベッドにわが横たわる |
| 妹の逝きしことしの尽きんとし思いもかけずヘルペスを病む |
| 妹亡き年暮れんとして吾の病む思えばことしは佳きことあらず |
| 点滴を終え帰りゆく師走のまち齢古る身の恃めなくして |
| 鎮痛剤のみてベッドに昼を臥すことし残るは二日となりつ |
| 思い出ずる五十年前入院の夫に付添い年を越えにき |
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| 遠田 寛 大阪 |
| 幾つかの音発しつつ作動するMRIに明日を託せる |
| 夜更けて心経諳んじ亡き母に病める不幸を告げて眠らん |
| 風入るらし病室の夕光にカーテンのひだ小刻みに揺る |
| 点滴に過ぐる十日は須叟にしてつくづく思う命というもの |
| カーテンに仕切るベッドに仰臥せり醒むる朝の来るを恃みて |
| 痩せほそる姿見すなと言うありきされど私は人に会いたい |
| 夢浅く帽子にコート纏いたる中也の後すがた行きたり |
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| 角野 千恵 神戸 |
| 庭石に置き忘れたる手袋は夜来(やらい)の雨に滴をおとす |
| 馬鈴薯を切りしままなる俎板に澱粉の筋白く乾ける |
| 病み長き腰骨かばい足あぐる今日の痛みの強きを思う |
| 蹲踞に黄のもみじ葉をとじこめてこの冬始めの氷の厚し |
| 子ら泊まる夜具を干さんと思うのみ捗らぬまま日の過ぎてゆく |
| 歳晩の迫れる今日を肺炎にて君入院の報を受けたり |
| 歳晩のみ墓の供花に添うるべく紅豊かなる千両を剪る |
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■ 推奨問題作 (1月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 秋植うる花の球根えらびつつひととき鬱をわすれていたり |
| 角野 千恵 |
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| 枕元にラジオを置き得し幸せを忘れ難し昭和三十二年 |
| 川口 郁子 |
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| 分隊長を五年勤めしビルマ戦共に伍長五名征き四名戦士 |
| 坂本 登希夫 |
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| 笑顔にて義兄が夢に顕ちたりと言いて紫苑を姉の供える |
| 佐藤 千惠子 |
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| 厨事代りてくれる夫のいて静けさの中に食器の音す |
| 坂下 澄子 |
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| 丸くなるは死ぬ前だよと強がりし母のやがては丸くなりにき |
| 武田 壽美 |
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| 離れ住めば生きていることも忘れいしわが妹の俄かの訃音 |
| 竹中 青吉 |
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| 同情も寄り添いなども拒みたき心を言えり友被災して |
| 西川 和子 |
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| 戦地より父の戻りし玄関に頭を垂れし祖母を忘れず |
| 春名 重信 |
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| 同胞(はらから)は入院中にして吾を呼ぶ電話のなくてニケ月の経つ |
| 春名 久子 |
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| 一とせを見ざりし媼みまかりて帰り賜いぬ向いの家に |
| 森口 文子 |
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| おさな子の未だ定まらぬ発音をその母の耳聞き分けている |
| 安西 廣子 |