平成27年4月号より

 

 
    選     
 
     桑 岡 孝 全           
 憲法九条をうとむ宰相外遊の途上テロリズムを誘発す
 邦人虜囚殺害の報到る日もかつ歌いかつはわらうメディアぞ
 殺人青年に肉親四人それぞれが生涯に負うおもきをおもう
 昭和八年出生同期の昭八会八十歳越えて招集のなし
 編集会議にからくも退院かないたる遠田寛の剃らぬおとがい
 
 
   高 槻 集
   山内  郁子     池田
 ゆとりなき思いに過ごす寒き昼庭のあちこち水仙ひらく
 新しき気持になりて街に出づ老い深まるを少し忘れて
 救急車去りたるあとは何事もなかりしがごと夜更けしずまる
 冷えわたり物の音なき朝の庭寒アヤメ濃き紫に咲く
 せわしさを楽しみとせし若き日を思いて衿の解れをかがる
 七株の牡丹の根もと堀り下げて肥料ほどこす大寒の日に
 つい愚痴をならぶる我に僧わが子聞く耳なしと言い放ちたり
   伊藤 千恵子     茨木
 疱疹の痛み少しく和らぎてこと多かりし年越えんとす
 病める身をいたわり早く帰りなんいまだ明るき街川わたる
 ターミナルに出で来て歩むはひと月ぶり往来の人の中に疲れて
 大寒の日の穏やかに窓に差しわが体調の少しもどり来
 樹の下のパン屑にけさ羽よせて雀十数羽ひたすらに啄む
 啄める雀いっせいにとび去りて嘴太鴉の一羽降り立つ
 如月のきたらんとして今夜降る雨は廂に音立てて降る
   坂本 登希夫     高知
 元朝に五錠と半分の薬のむ百歳われの療養始めと
 敵前上陸のわが歌載せし本棚の歌集を百歳が読み返しおり
 歳旦を背広纏えばヘルパーが二十歳程若しと囃す
 ベランダに硝子ごしの初日拝む人手恃まず過ごさせたまえと
  餅の無き病院はさびし百歳まで年々雑煮をくいいしものを
  羊を飼い毛を刈り糸作り子らの服を妻に編ませし戦後を思う
 寝て食いて病院の日々献体は申込みしが姨捨の語を思う
              ■  推奨問題作   (2月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 マンションの外壁工事始まりて網のかかれるうす闇に住む
  佐藤  千惠子
 百年使いし頭少しボケるは当然でしょうとヘルパーの言う
  坂本 登希夫
 爺さまは舗装路へ綱引っぱるを犬には犬のおもいあるらし
  南部 敏子
 老い知らぬ夫には解らぬこの鬱を抑えて庭の小菊を供う
  長谷川 令子
 大鉢のゼラニュームの葉の色づきて掃けばかさこそ高層の秋
  林  春子
 ヘルパーさん掃除したまう家の内人の気配に心のゆるぶ
  春名 久子
 名号を称えながらに古の石棺削りてなりし樋という
  森口 文子
 敬老会立冬すぎが習いとなる老人大方農を支えて
  森田 八千代
  折れ曲がり見ゆる小指は仕事ゆえ言い訳をして人に向かいぬ
   芦北 紀子
 千年を隔つるらしき二つの樋ともに手斧(ちょうな)の跡を残して
  安西 廣子
 秋くれば被る古びしこの帽子亡き妹の選びくれたる
  伊藤 千恵子
 花終えし大文字草の群生あり切りたつ崖の滴りのなかに
  岩谷 眞理子

 

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