平成27年5月号より

 

 
    選     
 
     桑 岡 孝 全           
 老いづける体いとえと書き添えて賜る賀状とみにふえたる
 八十に一歳くわえてつくづくと桑岡孝全性能劣化
 歌会席上奥嶋和子ひとりのみとおき東の地震を覚りし
 奇禍大小あいつぐ国にのどやかに身のめぐりのみうたう一団
 愛煙家にてありき定年退職直後肺の障りに呆気なく死す
 
 
   高 槻 集
   安西   廣子     大阪
 秋の日の傾く早く外壁のラセン階段長く影ひく
 幾度か夫と行きにしプールあるスポーツ施設車窓に見ゆる
 わが庭の北山杉の花枝を急ぎ切りたり飛散の前に
 孫や子にチョコを渡すという人の意外に多し吾のめぐりに
 晴るる日に蒲団干し得ず今日をとぶ花粉非常に多しと聞きて
 切り泥む一つ南瓜固しとも力弱りしかとも思いて
 キッチンに小さき立雛飾りたり一人居吾の多くいる場所
   伊藤 千恵子     茨木
 咲き出ずる九輪草のしろき花に日の照りかげりする二月尽
 九輪草咲けば思ほゆ榛名山の旅にはじめてわが知りし花
 あたたかき如月の末の一日なりことしはじめて黄沙の降りて
 大正生れ少なくなる世に存えてこの秋迎うるわが九十歳
 亡き母の倍の齢を生きるとは思いみざりき今夜寝んとして
 マンサクの咲きいん頃か夫ありて暮らしし村のかの広き庭に
 路地出でて歩むことなき二日三日今日ポストまでの百米ほど
   竹中  青吉     和歌山
 「闇市大吉萬事予通」の赤き連小さな店に大きなのぞみ   春節回顧など
 御車台に日本の十銭貨叩きつけ音を聞き真贋見る馬車夫は
 日本人は焼餃子(やきぎょうざ)好み彼らは蒸し餃子むし餃子よばるる旧正月待つ
 千山(せんざん)は仏と道との道場隣接鉄鉱山の発破(はっぱ)坐禅にひびく
 世間しらず遼東の豕(いのこ毛並黒くよく肥えて食欲さそう
 タイピスト鄭允中はリンゴ農家の子青きすっぱきを海水浴に
 娘々(ニャンニャン)祭娘々は女性の神大地は萌えて人はにぎわう
              ■  推奨問題作   (3月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 傷痍軍人になりたる父の歳末の工面を幼くおろおろ見ていき
  鶴亀 佐知子
 穏やかに母の命日終りたり晴れたる道に僧を見送る
  戸田  栄子
 冬の日は早く暮れゆく何用なき後期高齢者選挙に行こうか
  南部  敏子
 高く尖る石塔を兵士の墓と知らず若くもあらぬ運転手さん
  長谷川 令子
 八十歳過ぎたる友と我ながら旅に来たりて紅筆を買う
  森口  文子
 笑顔をばつくり普通の暮らしするこれを終えるが我が命終
  安井  忠子
 スーパーに求めし食材日々背負う鎖骨たくまし鏡の裸身
  吉田 美智子
 スタッフやホームの仲間に祝われて夫は七十七歳となる
  安西  廣子
 戦争の狭間生き来しわが少女期防空頭巾の火を叩き消し
   上野 美代子
 カーテンの仕切るベッドに仰臥せり覚むる朝の来るを恃みて
  遠田  寛
 百一の正月迎うと散髪せり両耳かぶさる髪切り清々
  坂本 登希夫
 帰るねまたくるからと手を振りて幼子に言う如く別れし
  坂本  芳子

 

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