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桑
岡 孝 全 |
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継色紙道風と伝うる仮名のありよきやわらかき筆を用いて
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粉本によらず写生を推進せし応挙の鴨の図がまのあたり
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| 絹と髪による縫いとりの来迎図精緻のほどは息詰まらしむ |
| 横浜事件細川嘉六と同級生であった物理の教師も世に亡し |
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高 槻 集
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| 松本
安子 美作 |
| 北風の強きを背に受け陶の畑に天地返しの鍬振りおろす |
| 元旦の日中降りつぐ粉雪の見るみる積もる三十センチ |
| 川向うのビニールハウスに積る雪崩れて落つる音の聞こゆる |
| 七十八の身体機能を考慮して雪の積もれば車にのらず |
| 一人居の友に分たん恵方巻き持ちて夕べの町中をゆく |
| 三十三の厄逃れとて運転免許取得せしは四十五年前なる |
| 女だてらに免許を取りて何すると隣の媼に言われし思う |
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| 山内 郁子
池田 |
| 籠り居のうちに忽ち過ぎゆける当て無き日なり寒の水飲む |
| 足はこぶことも稀なる庭の奥凍つる土より蕗の薹出づ |
| ふんだんに熱き湯使い炊事場に日にいくたびか洗い物する |
| わが村に小さき川あり今日くれば水たばしりて春おもわしむ |
| シャンデリアは仏天蓋(ぶってんがい)が起源と知り吾が本堂に熟(つくづく)見上ぐ |
| 彼岸会を営むあした僧わが子梵鐘撞けり春日の下に |
| ヒナゲシの揺らぎに遊ぶ小さき蝶庭石に腰おろし見ている |
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| 竹中
青吉 和歌山 |
| 黄砂やみ大地はみどり萌えたちて遼三彩の発想をよぶ |
| 賠償金の代りと差し出しし遼東半島元にかえり五十年の哀れ |
| 出来秋の苹果(りんご)を娘の会社へと涙ぐましきリンゴ農の両親 |
| 老虎灘に日本人の歌碑のこりたり今尚かわらず香の煙は |
| 「アカシアの大連」のこして早く亡し北へ帰る旅人もまた |
| 白き豕(いのこ)生まれて来る日のまたもあらん金州湾凪ぎ棗(なつめ)豊作 |
| 午前五時トイレ清掃に来る見れば厩(うまや)当番兵の如く頼もし |
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■ 推奨問題作 (4月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 元朝に五錠と半分の薬のむ百歳われの療養始めと |
| 坂本 登希夫 |
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| 歩く時帰りの道のり考えて無理しないことと主治医いいます |
| 白杉
みすき |
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| 帰り際居たのと言われる存在の薄さ身に添う処世のひとつ |
| 中道
英美子 |
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| 積雪を靴に踏みしめ手に触れてエキサイトするマレーシア娘 |
| 西川 和子 |
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| 竹落葉に腰まで埋まる石仏の笑まえる面の父に似ている |
| 春名
久子 |
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| つい愚痴をならぶる我に僧わが子聞く耳なしと言い放ちたり |
| 山内 郁子 |
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| 遺伝子は大海原を回遊の記憶あらんに水槽に棲む |
| 安井
忠子 |
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| おみやげにココナツオイル賜りぬ百寿の母にも効くのだろうか |
| 吉田 美智子 |
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| 諍いしことの遥けしわが夫の一日おおかた眠りて過ぎぬ |
| 安西
廣子 |
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| 菱餅を作りて祖母の飾りくれし母なき我のひいなの祭り |
| 岩佐 晤子 |
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| 午前午後夜間交替の看護師に二十日を吾のなじむなかりき |
| 遠田 寛 |
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| 十年前この病棟に看取りくれし次女は今亡し夜を眠れず |
| 川中
徳昭 |