平成27年7月号より

 

 
    選     
 
     桑 岡 孝 全           
 新卒新任は六十年前その日々をしのばしめつつ桜のにおう
 ウイスキー奨むる中吊り広告にひとひねりあり春はあげもの
 菜園にブロッコリーはもうすぐ花努めて食えと妻が指示する
 北米産セロリにながきはざかい期厨房に入る男子わが知る
 連休さなかなる病棟に遠田寛野球中継を見て臥(こや)り居き
 
   高 槻 集
   山内  郁子   池田
 暮れがたの庭に丈なす雪柳亡者の如く立ちて真白し
 野よりくる風自ずから匂いつつ朝洗いしわが髪を吹く
 おおいなる牡丹ひらくを庭に見るわが嘆かいは嘆かいとして
 子の法衣畳みつついる己が影半跏思惟像(はんかしいぞう)に似たるを思う
 夜を通しせわしなく散る楠の葉よこの穏やかな春の幾日を
 学業に励むなかりしそのかみを悔ゆる日々なり老いたる今に
 気紛れに買い求めにし豹柄のコートを今年の冬も纏わず
   鶴野  佳子   大阪
 右半身麻痺となりたるわが身にて立てず歩けぬ身障者となる
 右半身麻痺のわが身の重度にて重障者なる手帳戴く
 歩けない身となりたれば重障者用のタクシー券給付さる
 車椅子ごと乗車可能のタクシーにて買物にゆけると感謝感激
 杭全神社の池畔に生うる半夏生半ば白き葉を美しと見し
 ブラウスは殆ど娘の贈物お洒落なるものばかりで楽し
 深夜には配送のトラックの列大阪は昼夜を問はず交通渋滞
   伊藤 千恵子  茨城
 夫の忌の一日のすぎて広ごれる桜の若葉に雨降りやまず
 九輪草の終り紫蘭の咲き出でつ花茎長く風に揺れ合う
 紫蘭のはな咲けば偲ばゆ庭隅に植えて愛しみしわが亡き母を
 衰うる脚いたわりて上る駅の階の手すりのけさは冷たし
 路地にあそぶ子らの声絶えて穏やかに春の休日の夕べとなりぬ
 何方へゆきしか今日は門庭に撒くパン屑に雀来らず
 窓の外を集団登校の児童すぐ去年の春より少なくなりて
              ■  推奨問題作   (5月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 我が小指の第一関節に障りがくる百舌鳥渡りきて高鳴く季節
  安井  忠子
 コーリャンの重湯に育ちし妹の60キロでフラ踊るいま
  芦北  紀子
 幼き日六つき住まいし花の寺六十年を経るもかやぶき
  天ヶ瀬 倭文子
 キッチンに小さき立雛飾りたり一人居吾の多くいる場所
  安西  廣子
 キッズ用恵方巻きにて昼餉とす夫に付き添う検査室の前
  岩谷 眞理子
 空腹で足のもつるる午後の作業かにかくに耐えき英軍の使役
  坂本 登希夫
 二人して朝の散歩を日課とす五十年過ぐる背中見ながら
  坂本  芳子
 西日さす舗道の影は左手に杖持ち右にカートひく我
  澤田  睦子
 舞う雪を孫らと共に眺めいて元日の夕べやむまで長居
   篠木  和子
 御者台に日本の十銭貨叩きつけ音を聞き真贋見る馬車夫は
  竹中  青吉
 何時にても穏しき面の夫ありて病みたる人と思わざりけり
  鶴亀  佐知子
 膝元に犬はべらせて一人する昼餉おいしい気楽がええなあ
  戸田  栄子

 

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