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桑
岡 孝 全 |
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義姉入院九十一歳の兄ひとり住まえる家が春の気がかり
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煽動政治家(デマゴーグ)成りあがるのを見届けんわが残生の務めともして
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| 生協の集配を手伝う家の土間に見知りし犬を見ずなれる秋 |
| 職ひきて知りて馴染みし犬二匹つぎて死にけり二年が程に |
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浴室や路上でにわかに終る場合も考えてはみています仏陀よ
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高 槻 集
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| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 咲きそめしフランネル草のひと群に歩みとどめつ朝の路地来て |
| フランネル草の花に偲ばる九階の屋上園に育ていし君 |
| 妻ぎみの亡きあと独り住みまししビルの庭園に草花植えて |
| 今城塚古墳近しと聞き知れどいまだ見るなし移りて十年 |
| 出でゆきし昨日の疲れのいまだ身に残りて暑き昼を臥れり |
| けさのわが車窓に見え来亡き姉と行きし山の間の小さき美術館 |
| 桐の花咲きいん頃か美術館への坂を上りて姉と仰ぎ見き |
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| 坂本 登希夫 高知 |
| 百一の誕生日だと両手のばし臥床で吾れ万歳をする |
| この病院で長生きし記録作れと百一われに看護師の言う |
| 百一の誕生日に院長看護師ヘルパーらの祝辞に吾はとまどう |
| 病院の朝湯に百一が四肢のばし天国と言いわれは浸れる |
| ヘルパー二人百一の病室にきてハッピーツーユーと唄いくれる |
| 献血が三十回に貰いしと子は「抹茶の甘み」というのを持ちくれき |
| ビルマ戦場の密林で迷い十二日草食い黍刈りし畑に出し日をおもう |
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| 山内 郁子 池田 |
| 老いの鬱和らげんと来し蓬生に一人の思いを告ぐることもなし |
| 高ぐもりせる春の空見上ぐれば機の影のなく音の渡れる |
| びっしりと蘩蔞(はこべら)庭にはびこりぬ夜更けに降りし僅かの雨に |
| 境内の溝に溜れる楠落葉ひとひかかりて取りのぞきたり |
| わが庭のミツバタンポポヤブレガサつみて今宵天麩羅にせん |
| 子の問いに小さき嘘をつきし今日詫ぶる思いに墓所の草ひく |
| エレベーターにビルの深さを下りつつ互いに口をきく人のなし |
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■ 推奨問題作 (6月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| ふたとせを経たる記憶の交錯し病室へ帰る廊をあやまつ |
| 松野 万佐子 |
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| 新しき高層ビルよりわが夫のみ骨を祀るみ寺を眺む |
| 森口 文子 |
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| 足はこぶことも稀なる庭の奥凍つる土より蕗の薹出づ |
| 山内 郁子 |
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| 心身の吸わるるごとき青空とそのかみの北京を父言いにしを |
| 安井 忠子 |
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| 満州での体験書くといい続けわが母すでに九十過ぎぬ |
| 芦北 紀子 |
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| 老いたりし母の嘆きを聞き流し逝きて知りたり吾喜寿にして |
| 伊瀬谷征子 |
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| 我等姉妹幼きを捨てて去りし母老いたる今も理解かなわず |
| 岩佐 晤子 |
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| 一尾ずつしっかり眼つきているわかさぎ甘露煮頭より食ぶ |
| 上野 美代子 |
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| 娘の入る賃貸住宅の保証人に年金生活者は成れないらしい |
| 奥嶋 和子 |
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| 十歳で父喪いし吾なりき少女十歳というに会いたり |
| 奥村 道子 |
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| 痼疾また一つ増えたる八十五歳今日より春の彼岸に入りて |
| 角野 千恵 |
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| われらには銃後の農を恃みしか召集されしは次男三男 |
| 川中 徳昭 |
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