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桑
岡 孝 全 |
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遊覧船や観光バスから大戦の跡を眺めて詠む世なるらし
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島本正齊も大西公哉も世をへだてともに嘆かん人も乏しき
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| 皇紀二千六百年われ尋常科一年生草履袋というのも提げて |
| 曇る野のあしたしばらく涼しきを病棟の遠田ひろしは知らず |
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耳を病み眼を病むみかど道長と対峙かなわずしりぞきたまう
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高 槻 集
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| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 夏至の日のすぎゆきてけさ窓下に咲くクレマチスの紫のはな |
| 大輪のクレマチスの花一つ咲き梅雨のくもりの昼閑かなり |
| 脈絡もなく思い出でわが恋しむ歌やめし古き新宮の友を |
| 佐藤春夫の生家は此処と案内する友と坂多きまち携いき |
| 別れ来て朝の川わたるみ歌あり若かりし日の君の一首に |
| 再入院の君見舞わんときたるまち覚ゆる私鉄の踏切わたる |
| いつか来たみちを再びゆくのかと戦争知らざる首相危ぶむ |
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| 坂本 登希夫 高知 |
| 県警友会の長寿番付け百一が三年つづき東の横綱 |
| 芽株佃煮のチューブを押して飯にかける百一の力をつくし |
| 百一のひょろひょろ吾を守りくれる院長看護師ヘルパーら有難し |
| 医療受けつつ食いて寝る穀つぶし教育委員長を勤めし思う |
| 塩尻の短歌フォーラム九十一で岡野先生に色紙賜る |
| 掘立て柱に椰子の葉葺きしビルマの集落三年居りき紙鉛筆なく |
| 中隊本部づき食料係班長われもんもんと過しきすべなく |
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| 山内 郁子 池田 |
| 何事も無きまま春は過ぎんとす刻々老いの進むほかには |
| オガタマの花の終りて静まれる庭に小さき鳥一つ居る |
| 咲きほこる大山蓮華突風に飛ばされゆくを窓より見つむ |
| 仏手柑(ぶつしゅかん)の葉に動かぬをよく見れば緑色せる雨蛙なり |
| 実生より育ちたるらし知らぬ間に柿の根方に若木の立てり |
| ナツツバキ咲き始めたりゆくりなく母の忌日の六月八日 |
| 庭の小草ひけば二の腕痛むなり梅雨明けの頃はまして激しく |
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■ 推奨問題作 (7月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 草たちも春の営み盛んにて引き抜きおえてくさめ止まらず |
| 安井 忠子 |
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| 子の法衣畳みつついる己が影半跏思惟像(はんかしいぞう)に似たるを思う |
| 山内 郁子 |
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| 銃撃たず密かに敵の背に迫る教練ありき戦時の中学 |
| 山口 克昭 |
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| 衰うる脚いたわりて上る駅の階の手すりのけさは冷たし |
| 伊藤 千恵子 |
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| 箸立てに使いし箸が残りたり子は空港を発つころおいか |
| 上野 美代子 |
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| 早くなる脈を指もて測るくせ今しばらくの命ねがいて |
| 遠田 寛 |
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| この春は見知らぬ鳥の多くみゆ団地の木々のあまた伐られて |
| 北 蓉子 |
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| 一筋に仕事大切と勤めきて家族もたない老いとなりたり |
| 佐藤 千惠子 |
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| 要塞爆破決死隊長で雪道に出動待ちし昭和十六年二月二十日払暁 |
| 坂本 登希夫 |
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| 告ぐるなく別れ来りて六十年年賀の交わりこの春終わる |
| 白杉 みすき |
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| 吾の事誰だかわかりいるらしい姉との会話今日はスムーズ |
| 並河 千津子 |
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| 間近くにありて日々見る吾が母校学童疎開以後戻るなく |
| 松野 万佐子 |
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