平成27年10月号より

 

 
    選     
 
     桑 岡 孝 全           
 農道を小雨にぬれてともかくも歩くよ友の世に亡き宵を
 わが兄と友とを危惧し経る夏の終らんとして友を喪う
 病勢はもとより自覚ふるさとへゆきて終るをねがいし日々か
 妻ぎみも重篤なるをしりてひとり臥しし絶望の程をおもうよ
 世に遺す悔いのひとつか装丁の細案も得し歌集成るなし
 
   高 槻 集
   川中 徳昭     宮崎
 吾が谷にせせらぐ水も混じりいんゆたかに海に流るる河に
 九州の全土見ゆるか水晶のかけらに見えて飛行機がゆく
 電線に一連止まる小雀の一羽が飛べば乱れて立ちぬ
 若栗の匂いそむるか枝を引き猪は何処其処実を食いちらす
 草刈りし園に憩えば下枝の葉群ゆるがし風通り来る
 肺炎を病みてひと月体調の戻らぬ日々の見廻りはつらし
 体力に自信ありしが肺炎を病みて体の老いをうべなう
   長谷川 令子    西宮
 朝夕にかかる国際電話ありアメリカにて一人となれる友より
 ミシガン湖畔の広き庭と池思い出づ夫君と共に迎え給いき
 軒の傷指さして啄木鳥のしわざよと告げにし友の朗らかなりき
 名も顔も知らぬタレントの週刊誌とじて待合室の時計を見上ぐ
 医師の勧むる新薬の処方に思いあぐみ息子に諮る独り居の吾
 新薬の効き目か今朝は背を伸ばし梅雨の晴れ間の河原を歩む
 間に合わぬ健康若返りの広告の狭間の記事を今朝も読みおり
   伊藤 千恵子    茨木
 朝の戸を繰ればとびくる雀一羽続きて二三羽餌をまつらしき
 わが前のプールの庭の樫の枝を塒とするらしこの雀らは
 カラフルな浮き輪もつ父と幼児とプールに入りゆく今日は日曜日
 一年の早く過ぎつつ妹を偲ぶ夕べを雨かぜはげし
 また逢う日約して夕べの地下街に別れし汝のひと夜にて亡し
 耳遠くなれりと思う独りみる今夜のテレビのボリューム上げて
 うす笑い浮かべ首相の退場す安保法案可決されたり
              ■  推奨問題作   (8月号から)     編集部選
                       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 ゲルマンのみんな大きく見ゆる街ウインドに立つマネキンさえも
  脇本 ちよみ
 森行きて木草の名前問いし時おおかた夫の教えくれにし
  安西 廣子
 亡き夫の車を置きし庭の隅かすかな轍今に残れる
  岩佐 晤子
 レシートの裏にメモせる母の文字鉛筆書きの平城山の歌
  奥村 道子
 体重の四十キロを欠けたるをナースは事もなげに告げたり
  遠田 寛
 心拍数はげしくなれば一休み躯大切と田のくろを打つ
  川中 徳昭
 雨に打たれ色の褪せゆく平戸躑躅姑さん今年も多く咲いたよ
  坂下 澄子
 百一の誕生日だと両手のばし臥床で吾れ万歳をする
  坂本 登希夫
 自転車を借りて乗り方を覚えにき貸しくれし友その後を知らず
   高間 宏治
 亡き夫に似てか二人の孫たちは鴨居を越ゆる背丈となりぬ
  鶴亀 佐知子
 見つつ選ぶ楽しみ失せて週毎の配達待ちて冷蔵冷凍
  長谷川 令子
 八歳の吾より十二の兄の方が辛かったろう母との死別
  藤田 操

 

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