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桑
岡 孝 全 |
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農道を小雨にぬれてともかくも歩くよ友の世に亡き宵を
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わが兄と友とを危惧し経る夏の終らんとして友を喪う
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| 病勢はもとより自覚ふるさとへゆきて終るをねがいし日々か |
| 妻ぎみも重篤なるをしりてひとり臥しし絶望の程をおもうよ |
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世に遺す悔いのひとつか装丁の細案も得し歌集成るなし
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高 槻 集
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| 川中 徳昭 宮崎 |
| 吾が谷にせせらぐ水も混じりいんゆたかに海に流るる河に |
| 九州の全土見ゆるか水晶のかけらに見えて飛行機がゆく |
| 電線に一連止まる小雀の一羽が飛べば乱れて立ちぬ |
| 若栗の匂いそむるか枝を引き猪は何処其処実を食いちらす |
| 草刈りし園に憩えば下枝の葉群ゆるがし風通り来る |
| 肺炎を病みてひと月体調の戻らぬ日々の見廻りはつらし |
| 体力に自信ありしが肺炎を病みて体の老いをうべなう |
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| 長谷川 令子 西宮 |
| 朝夕にかかる国際電話ありアメリカにて一人となれる友より |
| ミシガン湖畔の広き庭と池思い出づ夫君と共に迎え給いき |
| 軒の傷指さして啄木鳥のしわざよと告げにし友の朗らかなりき |
| 名も顔も知らぬタレントの週刊誌とじて待合室の時計を見上ぐ |
| 医師の勧むる新薬の処方に思いあぐみ息子に諮る独り居の吾 |
| 新薬の効き目か今朝は背を伸ばし梅雨の晴れ間の河原を歩む |
| 間に合わぬ健康若返りの広告の狭間の記事を今朝も読みおり |
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| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 朝の戸を繰ればとびくる雀一羽続きて二三羽餌をまつらしき |
| わが前のプールの庭の樫の枝を塒とするらしこの雀らは |
| カラフルな浮き輪もつ父と幼児とプールに入りゆく今日は日曜日 |
| 一年の早く過ぎつつ妹を偲ぶ夕べを雨かぜはげし |
| また逢う日約して夕べの地下街に別れし汝のひと夜にて亡し |
| 耳遠くなれりと思う独りみる今夜のテレビのボリューム上げて |
| うす笑い浮かべ首相の退場す安保法案可決されたり |
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■ 推奨問題作 (8月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| ゲルマンのみんな大きく見ゆる街ウインドに立つマネキンさえも |
| 脇本 ちよみ |
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| 森行きて木草の名前問いし時おおかた夫の教えくれにし |
| 安西 廣子 |
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| 亡き夫の車を置きし庭の隅かすかな轍今に残れる |
| 岩佐 晤子 |
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| レシートの裏にメモせる母の文字鉛筆書きの平城山の歌 |
| 奥村 道子 |
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| 体重の四十キロを欠けたるをナースは事もなげに告げたり |
| 故遠田 寛 |
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| 心拍数はげしくなれば一休み躯大切と田のくろを打つ |
| 川中 徳昭 |
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| 雨に打たれ色の褪せゆく平戸躑躅姑さん今年も多く咲いたよ |
| 坂下 澄子 |
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| 百一の誕生日だと両手のばし臥床で吾れ万歳をする |
| 坂本 登希夫 |
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| 自転車を借りて乗り方を覚えにき貸しくれし友その後を知らず |
| 高間 宏治 |
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| 亡き夫に似てか二人の孫たちは鴨居を越ゆる背丈となりぬ |
| 鶴亀 佐知子 |
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| 見つつ選ぶ楽しみ失せて週毎の配達待ちて冷蔵冷凍 |
| 長谷川 令子 |
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| 八歳の吾より十二の兄の方が辛かったろう母との死別 |
| 藤田 操 |
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