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桑
岡 孝 全 |
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友の喪に服する如く経る日々に年賀葉書を言わるれば買う
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僧か医となるをねがいし父の意にしたがわずして今や老耄
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| 父の意の僧にも医にもならざりきなり果(おお)する器にあらざりき |
| 寺に生れし嘆きを小説に書こうとせし桂真澄は永らえありや |
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月刊歌誌の表紙を占めて膝をいだく山口克昭少年孤独
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高 槻 集
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| 高間 宏治 小金井 |
| 今日訃報聞きたる友は中秋のこの名月を見ずに逝きしか |
| 半年前車椅子タクシーで会いに来し今生の別れの積りなりしか |
| 飄々と己が病状を語りいし江戸っ子君をわれは悲しむ |
| 新薬のモルモット役はもう御免われに慰める言葉なかりき |
| 弟君も兄貴の君も七十年のつき合いなりきああ七十年 |
| 千葉の田舎に合宿用の藷もとめ君と行きしは昭和二十二年 |
| かにかくにこの名月も庭に匂う金木犀も忘れざるべし |
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| 伊藤 千恵子 茨木 |
| 在りし日に君恋いまししふる里の出雲にみ魂の還りいまさん |
| 妹を去年喪いしかなしみの癒えぬに君と世をへだてたり |
| みまかりて既に二十日のすぎゆきて秋の彼岸を今日迎えたり |
| 宍道湖のほとりに宿りて妹と君のふるさとを旅せし日あり |
| 年へだて秋の彼岸に逝きまししわが姉夫婦を思う今夜は |
| 秋暑き日差の中に咲きているおみなえしの黄の小さき花むら |
| 血圧の薬ひとつを増やされて朝々を服む錠剤五つ |
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| 坂本 登希夫 高知 |
| 栴檀の太木の青枝しだるるを見つつおり百一の脳の澄みゆく |
| 台風の過ぎゆく朝を湯に浸る百一は四肢を思いきり伸ばし |
| 幾度も寝返りしつつ眠られぬ夜を看護師にアイスノン借りる |
| 一万の兵溺死せしシッタン河眠れぬ夜半に思いいでたり |
| 濁流の夜のシッタン河萱束の筏で一夜分隊渡河す |
| 三米の切岸をかにかく這上がりジャングルの菩提樹下に臥りき |
| 一万八千戦死せし吾が廿八軍シッタン平野を吾が分隊脱す |
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■ 推奨問題作 (10月号から)
編集部選 |
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現実主義短歌の可能性拡大をめざして |
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| 洪水の避難準備の警報に二階で寝よと子のメールくる |
| 角野 千恵 |
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| いつも同じ姿勢に座卓にありし父抽出しに眼鏡時計を遺す |
| 岸本 良子 |
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| 異国よりのツアーご一行家族づれデパートの売り場走り回る児 |
| 久保 和子 |
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| 椅子一つ踊り場に置くクリニック足を止めずに一気に上がる |
| 佐藤 千惠子 |
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| 米軍に逐われて終るわが生(よ)かと暗然と思う夜のありたり |
| 高間 宏治 |
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| 施設より帰りて一人住む母は臥す事多し笑顔の消えて |
| 中原 澄子 |
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| 俄かなる弟の訃にわが兄の長まることの多くなりたる |
| 春名 久子 |
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| 獣医科も高齢化なりおとなしく準番を待つ犬と猫たち |
| 板東 芳美 |
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| 梅雨の雲切れて青空見ゆる朝長く行かざる旅を思いぬ |
| 安西 廣子 |
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| 幾つかの病を持ちて老いゆかん言わるる、ままに服薬をして |
| 伊勢谷 征子 |
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| 家財なべて戦火に消えし間借り暮し家族の無事をより所とし |
| 上野 美代子 |
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| みちのくの秋保の旅の写真あり夫には癌の兆しし頃か |
| 小倉 美沙子 |
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