平成28年3月号より
    関西アララギ創刊70周年記念年
    
  選者の歌
  桑岡 孝全  大阪
 
 発行所の看板も石橋なる表札もなおそのままに秋を掲げぬ
 戦時下の夜の暗闇をおびえ泣く幼児でありしおとうとも亡し
 その女人に吾への感謝を言い遺しおきておとうと世を隔てたり
 不審視をこの朝もせり卓上の「減塩しお」と貼れる小瓶に
 わらうほかなくて笑いぬ変わるなき自己中心の電話をきりて
    550号記念合同歌集の場合
    続 関西アララギ作品回顧)     
  
  永岡 ツヤコ    神戸
 
 照り曇り俄かに吹雪となる日癖物干竿の今日も落ちたり
 飛ばされて数の減りゆく洗濯ばさみ風荒き地と知らず来て住む
 職替えし汝が横浜に移り住み帰り来て話す言葉の早し
  70周年記念30首競泳
   
      豊穣      安井 忠子
 子は逝きぬあの子は逝きぬと泣き叫び身を揺るがせる夢より覚めぬ
 泣き叫ぶ夢より覚めて呟きぬあの子は死んだ死んでしまった
 全身を揺るがし泣きて震えるを我は成しえず夢にかないぬ
 看取るなく事故に逝きにし汝れゆえに彼岸にあるを認められなく
 一瞬の事故のあえなし健やかに命あふるる子にてありしを
 泣きおらぶことの叶わず我が心病みて深みになお落ちゆけり
 汝(な)がことを言葉重ねて歌つくり哀れ極まる我ときめたり
 有限は人の定めと知りながら妄執強く肯えずして
 残る子ら喪う恐怖に身のすくみ心の闇の深まりゆけり
 動かざる時計をもちて現(うつつ)には二十五年の歳月過ぎぬ
 幾たびも夢に顕ちたり「もうゆく」と心の深き底の声して
 人影も入りくる電車もなき駅にただ汝れ待ちて立ちつくす夢
 無数の蝶舞う深き谷飛び越えてもうゆくと汝(な)は告げたるものを
 幼児よりたちまち大人になれる汝れもうゆかねばとまたも告げたり
 まざまざと事故起こりたる夢を見き時空を超ゆる体験として
 さまざまな夢に汝れとの別れ知る限りあるのは人の定めと
 巻きつける鎖となりし愛別の苦しみあれど時計動けり
 汝が旅の地の街路樹はオレンジのたわわに実り光みちたり
 子は彼岸吾は此岸に生きてある心の中を写したる夢
 幽明の境を異になしたるを漸くうけて心に生きる
 花を見て生きてあるのは良かったと突如思いし我に驚く
 泣き叫ぶ夢をみてより不眠癒えまなことろけて眠りにつけり
 これの世を人は旅して汝れの住む彼岸に向う月日の流る
 長短のありと雖(いえど)も人はみな春夏秋冬それぞれにもつ
 心決めバレエ衣装を焼きて埋む我が執念のひとつにありし
 歌誌読みて悲しみ背負い笑顔して世にある人の多きを知りぬ
 癒ゆるなき悲苦と痛みを大切に持ちて残生ほがらに生きん
 汝がことを背負いゆかんと決めしより涙出できて心安らぐ
 汝れと我れ共に残生生き行かん今ある一瞬積むが供養と
 豊饒の一生(ひとよ)は薔薇の色ならず暗き明るき混じらいてなる
     推奨問題作 (1月号から)  編集部選
       現実主義短歌の可能性拡大をめざして
 
 枇杷の木の切り口に立つ芽のありて差せる光は秋に入るべし
  春名 久子
 ただいまと返事なき家に帰りきぬ夕べの歩み六千二百歩
  板東 芳美
 かろうじて鹿より守りし十日豆もぎてゆく背に西日の温し
    松本 安子
                       
 二三日預かるフランス青年は正座しわれの番茶をよろこぶ
  森口 文子
 陰選び弁当つかう公園は多くの被爆者斃れ給いし地
  安井 忠子
 咲き垂るる黄藤にうごく風ありて黒蝶一つ止まれずにいる
  山内 郁子
 母の忌の知らせを受けて思い出づもう逝きたしと呟きし朝
  脇本 ちよみ
 アメリカの空母艦上に立つ首相テレビの映像にこころ怖れつ
  伊藤 千恵子
 注射により視力一・○に甦る老いの命の力を思う
  川中 徳昭
 生きて帰りおかえししますと八幡宮の石ころ二個を千人針に入れし
  坂本 登希夫
 耳遠き夫との会話に疲れたるわれは微睡む秋ふかき午後
  白杉 みすき
 庭中の弾痕の側に馬の死骸寄り添うごとく鶏も死にいき
   高間 宏治

 

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