100年生きるシロアリ女王 2000,1,30 掲載

 オーストラリアに住むナスティテルメス・シロアリ女王は成虫になってから100年も生きる。百獣の王・ライオンが30年の寿命しかないことを考えれば、人類の平均寿命をこえるこの100年女王は、とても昆虫とは思えない長寿者である。「かげろうの命」というたとえのように、カゲロウの仲間は成虫になると、わずか一日ではかなく消え去ってしまう。
 ショウジョウバエの一生はたった二週間、春から夏にかけてのモンシロチョウの一生は約50日、昆虫界の王者の貫禄を持つカブトムシの成虫でさえもっとも長生きして130日というぐあいに、昆虫類は一般に寿命が短い。

 その寿命の短さを旺盛な繁殖力でカバーするのが昆虫界の通例であるが、シロアリの女王は長寿に加えて産卵数がずば抜けて多い。
 高さ6bの巨大な巣(シロアリの塔)に住む、300万匹をこえる大家族に君臨する100年女王は体長が10センチもある。小さな夫(王)と一緒に王室に住み、つねに大勢の従者(職アリ)に囲まれ、食事などいっさいの面倒をみてもらいながら産卵に専念する。女王の腹は卵でいっぱいで、体を動かすこともままならずに横たわり、ただ流れるように卵を産み出している。夫や従者達には順次世代の交代がおこるが、女王は100年もの長いあいだ、命のあるかぎり卵を産み続けるので、一生の産卵総数は50億個にも達するという。これも昆虫界ナンバーワンである。

 シロアリはアリと和名が似ているので、アリの仲間と誤解されやすいが、類縁関係は遠い。シロアリは古生代に現れた昆虫で、ゴキブリに近い。一方、アリの方は中生代の終わりに現れた膜翅目(ハチの仲間)の昆虫で完全変態をする。しかし、いずれも女王を中心にした社会生活を営み、役割分担を整然とおこなっている。まったく違うグループなのに、社会性昆虫として両者ともこれ以上発達しようのないところまで行きついているのは実に興味深い。(農学博士 安富和男より)

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