2000,4,28掲載 ホタルが光るしくみ 2000,6,9更新

 ホタルの腹端にある発光器は、表皮、発光細胞、気管、神経、反射層から構成されている。
 発光のしくみは、発光細胞で発光物質のルシフェリンが酵素ルシフェラーゼの働きにより酸素と化合する酸化反応による。
 このとき、アデノシン3リン酸と微量のマグネシュームイオンも発光作用に加わる。
できた光は反射層で反射され、透明な表皮を透かして外へ放たれる。
 ホタルの光はほとんど熱を伴わない560ナノメートルの波長で、冷光(れいこう)とよばれている。
風で消えず、水にも滅しない理想的な光である。

 ホタルの光り方は、種類や♂・♀により、また幼虫と成虫とで違う。
閃光を放つようにいそがしく光る種類、連続光を放ち続ける種類など多彩であるし、幼虫期は発光するが成虫になると発光しないホタルまでいる。大場信義博士によれば、最近、遺伝子工学が進歩し、ホタルの発光にかかわる遺伝子を植物に取り込んで発光させることに成功(1993年)した。
さらに遺伝子工学の技術により、発光物質を量産できるようになったそうである。 
 ホタルの発光器官
ホタルの発光器官

ゲンジボタル
  ゲンジボタル
東西で光の会話が違うゲンジボタル

 ゲンジボタルはヘイケボタルとともに日本を代表するホタルであり、一生を通じて発光する。
卵・幼虫・蛹が光るのは外敵に対する警告、おどしと解釈されるが、6月に現れる成虫が発光する主な目的は仲間どうしのコミュニケーション、特に雌雄の信号、すなわち「光の会話」である。

 幼虫は連続的に光るが、成虫は断続的に強い閃光を放つ。とまっているときはゆっくり明滅するが、雄が群れで飛びながら発光するときには、周期をそろえて一斉に光る「集団同時明滅」を行う。
集団化によって、配偶行動の効率を高めているのであろう。
草の葉などにとまっているメスは、オスとは異なる発光パターンの信号を送ってメスを誘う。

 群飛しているゲンジボタルのオスの発光周期には西日本と東日本で差があることが、最近、大場信義博士等によって明らかにされた。いいかえれば「光の方言」である。
西日本では2秒に一回、東日本では4秒に一回発光し、その分布境界は糸魚川〜静岡構造線にある。
 今から2600万年前の新生代第三紀中新世(新第三紀)のころから第四紀のはじめにかけて、大規模な激しい断層運動が度々繰り返され、それに伴う大陥没が起こって本州を東と西に両断する「大地溝帯」(フォッサマグナ)になった。海だった時代も続いた。

 糸魚川〜姫川〜諏訪湖西岸〜釜無川〜静岡付近をむすぶ「糸魚川〜静岡構造線」は、フォッサマグナの西縁をなしているが、これを境にして東西の地質と地形にハッキリした違いがあるし、また生物を地理的に隔離する障壁の役目もした。
地理的隔離は、昆虫の種(または亜種、型)が分化するきっかけになる。
 東西のゲンジボタルにおける「光の方言」の差は、配偶行動にかかわるので生殖的隔離につながる。
現在、両者は分類学上、同じ種として扱われているが、種が分化しつつある過程かもしれないと言う。

 また東西のゲンジボタルでは、発光のピークとなる時間が違う。
東日本の19時45分に対して、西日本では20時30分というズレが見られる。
さらに西日本のゲンジボタルは集団をつくって産卵する生態的な特徴をもっている。
 人々が光源に利用する電気の周波数も東日本は50ヘルツ、西日本は60ヘルツという違いがあるが、ホタルの地理的隔離とは全く異質な筈の電気の周波数の境界がほぼ符号しているのは面白い!

 ゲンジボタルがたくさん発生する所では「蛍合戦」という現象が見られる。
昔の人は、源氏ボタルと平家ボタルの合戦と考えたが、真相は生殖に関係したゲンジボタルの群飛である。

参考文献「ホタルの飼い方と観察」大場 信義 著(1993)  TOP