侵入者に対して完璧な防御を誇るかのように見えるスズメバチの巣も、実はいろいろな居候や寄生者をその中に宿しています。これらの動物には、巣の下にたまったゴミ(餌の食べかすや死体)などを食べる腐食的な居候から、ハチの幼虫や蛹の捕食寄生者としていきているものまでいます。ここでは捕食寄生者をいくつか紹介しましょう。 |
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その数奇な生活史で異彩を放つのがカギバラバチです。これはスズメバチ類の幼虫の寄生バチですが、幼虫に直接産卵するわけではありません。雌成虫は樹木の葉に多量の卵を産みつけます。食葉性の蛾の幼虫など(中間寄主)が、たまたま葉と一緒にその卵を飲み込みます。この時大あごで傷つけられた卵が中間寄主の体内で孵化し、更にこの中間寄主がたまたまスズメバチに餌として狩られ、その肉団子がスズメバチの幼虫に与えられて初めて、カギラバチは寄主の体内に辿り着くのです。正に綱渡り的な生活と言えましょう(下図)。カギラバチの幼虫は、しばらくの間体内から寄主を食った後、体表に出て食い尽くします。
中間寄主の体内 中間寄主がスズメバチに狩られる
一齢幼虫 → ↓
↑ スズメバチの幼虫に与えられる
卵が中間寄主に食われる ↓
↑ 2〜5齢幼虫
葉に産卵
↓寄主死亡
←
成虫 ← 蛹
エゾカギラバチの生活史(一部推定、1980,Edwards)
またオオハナノミという甲虫がいます。この虫の生活史も長く謎とされてきました。雌成虫は朽木の表面などに産卵します。特殊な形をした一齢幼虫(この虫はいわゆる過変態を行い、一齢とそれ以降の幼虫の形態はまるで違う)は、たまたまその木に巣の材料を取りにきた働きバチの体にしがみついたまま巣に到達し、そこで寄主である幼虫に乗り移る。たまたまということばが何回も出てきますが、こうした寄生者が一般にきわめて多くの卵を産むのも、その不確実さを補うためなのでしょう。
また寄生バチであるヒメバチの仲間には、厳重な警戒をくぐり抜けてスズメバチの巣に侵入し、雌がスズメバチの幼虫に産卵します。ヨーロッパから紛れ込んだクロスズメバチ類が非常に増えて問題となっているニュージーランドでは、このヒメバチを天敵として使おうという試みもなされています。
一方メバエというハエの仲間には、スズメバチ類の幼虫を寄主とするものがいます。ハチの巣のそばで待ち構えていたメバエは、帰ってきた働きバチに飛びつき一瞬のうちに産卵し、孵化した幼虫はハチの腹の中で育つというわけです。
スズメバチといえども、生物界に普遍的な寄生という現象からは決して逃れられないのです。ただし社会生活が単独生活に比べて寄生の被害を多少とも軽減する可能性はあります。
◇参考文献;松浦 誠(三重大学)、牧野俊一(森林総研) TOPに戻る