1999,5,11掲載 自分の子孫を残すための執念 2000,6,14 更新

1.雄カマキリの執念

 カマキリほどメスが強い昆虫はないだろう。なにしろ、メスはオスに比べて身長で2倍、体重なら4倍もあるのだからオスはとてもかないっこない。交尾の前にメスに捕らえられ、頭から食べられてしまうことがよくある。
 ふつうの動物の常識ではたちまち死につながるところであるが、カマキリでは頭のなくなったオスがなお交尾行動をおこし、ちゃんと交尾に成功する。また長い交尾時間中に腹がへって食欲を感じたメスにとらえられ、頭を食われてしまったオスが再び挑戦して目的を遂げることも多い。
 頭がなくなると、それまで脳や下咽頭神経球に支配されていた交尾中枢の「抑制」が解けて、交尾行動の昂進が起こる。受精を確実にするためにか弱いオスが獲得した手段だと言われている。交尾が終わると胸も腹も食べられ、メスの栄養と化してしまう。
オオカマキリ


2.ライバルの精子を掻き出す虫

 カワトンボのオスは専用の道具で他人の精子を掻き出して、自分の精子と置き換える。またアオマツムシのオスは取り出したライバルの精子を食べてしまう。
 トンボは他の昆虫に類例を見ないユニークな交尾姿勢をとる。オスは腹端の付属器でメスの首(頭部または前胸部)をしっかりはさんで連結状態になり、メスが腹を輪のようにまげて、先端にある生殖器をオスの腹部第二、三節にある「副生殖器」にあてがい、結合する。このとき横向きのハート形に見える。この姿勢をとるため、オスはあらかじめ精子を腹端の生殖器から副生殖器のほうに移しておく。
 カワトンボの精子掻き出し行為は、はじめアメリカで発見され、日本のカワトンボでは、椿宣高博士の緻密な観察がある(1989年)。交尾に入ると、まずオスは交尾器についている剛毛を用い、ピストン運動を繰り返すことによって、先に交尾したライバルの精子を掻き出す。精子を除去したあと、自分の精子を放出して交尾を終える。メスが川に倒れ込んでいる枯れ木などに産卵している間、オスはそばで見張りをする。他のオスが近づくと飛び立って追い払うが、追いかけているすきにメスと強引に交尾する悪者が現れることがある。自分の子孫を残すための戦いは熾烈を極める。
 トンボは他の昆虫に類例を見ないユニークな交尾姿勢をとる。オスは腹端の付属器でメスの首(頭部または前胸部)をしっかりはさんで連結状態になり、メスが腹を輪のようにまげて、先端にある生殖器をオスの腹部第二、三節にある「副生殖器」にあてがい、結合する。このとき横向きのハート形に見える。この姿勢をとるため、オスはあらかじめ精子を腹端の生殖器から副生殖器のほうに移しておく。
 カワトンボの精子掻き出し行為は、はじめアメリカで発見され、日本のカワトンボでは、椿宣高博士の緻密な観察がある(1989年)。交尾に入ると、まずオスは交尾器についている剛毛を用い、ピストン運動を繰り返すことによって、先に交尾したライバルの精子を掻き出す。精子を除去したあと、自分の精子を放出して交尾を終える。メスが川に倒れ込んでいる枯れ木などに産卵している間、オスはそばで見張りをする。他のオスが近づくと飛び立って追い払うが、追いかけているすきにメスと強引に交尾する悪者が現れることがある。自分の子孫を残すための戦いは熾烈を極める。

 明治時代(1800年代終わり頃)、東京に渡来したアオマツムシは関東以西の本州、四国、九州に分布を広げ、初秋の夜、樹上で大合奏をする。小野知洋博士の観察によれば、交尾のとき、オスの生殖器の先端がメスの精子貯蔵嚢の奥まで到達した状態で自分の精子を放出するから、前に交尾したオスの精子は押し出されることになる(1989年)。交尾が済んでオスが生殖器を抜き取ると、その上にライバルの精子が載っている。オスは腹を内側に曲げて、なんとライバルの精子を食べてしまう。

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