T.2種類の鱗粉…上層鱗と下層鱗
鱗翅類(チョウ・ガ)の翅の紋様は鱗粉の色で作られているが、どんな紋様でも規則的な並び方をしている。すなわち翅の前縁と後縁を結ぶ方向に列をなし、基部と外縁を結ぶ方向にほぼ等間隔に並んでいる。
また大半の鱗翅類の翅には形態の異なる「カバースケール(上層鱗)」と「ベーサルスケール(下層鱗)」と呼ばれる2種類の鱗粉が見られ、鱗粉の細くなった基部を翅面上の小突起である「ソケット」の穴に突き刺すようにして翅に付着している。私達が見ているのはこの「上層鱗」だけで、「下層鱗」は「上層鱗」に覆い隠されているので、ほとんど見えないが、二つの鱗粉は翅の前・後縁方向に交互に並んでおり、その交互性は極めて正確である。
鱗粉は一個の細胞からできており、「鱗粉形成細胞」が伸ばした突起がクチクラを分泌したものだが、この鱗粉の形成が完成するのは蛹の末期という。
また上層鱗と下層鱗とでは翅への付着力が違い、前者は取れやすく後者は取れにくいが、翅に触れた時に手につくのはほとんどが上層鱗で、下層鱗は一個をピンセットの先でつまむと翅一枚を持ち上げることができるほどしっかりくっついている。
この付着力の違いが鱗粉の「役割」と関係すると、吉田昭宏博士(上智大学)は言う。以下にその論点を述べると…
@飛行時の抵抗を減らす→鱗粉が取れにくい方が都合よさそう…
A鳥などに捕まった時に逃げやすい→鱗粉が取れ安い方が都合よい
この二つの相矛盾する「要求」を満たすために、上層鱗と下層鱗の2種類の鱗粉を持つようになったのではないか?
すなわち、取れやすい上層鱗は翅に滑り安さを与えて捕獲される確率を減らし、取れにくい下層鱗は上層鱗が取れた後でも翅に残って、飛行時の抵抗を減らすという役割を失わないようにしているのではないか?(仮説なので、検証が必要と言う) |
U.光の散乱による鱗粉の青色
ナミアゲハの後翅上面には青いスポットがいくつか見られ、この部分を拡大すると青い鱗粉(上層鱗)が見られるが、この青い鱗粉は青い色素を持っているわけではない。試しにこの鱗粉を翅から取って白い紙の上にのせると、ほとんど見えなくなってしまう。青く見える上層鱗は実は「無色」である。
それでは無色の上層鱗がなぜ青く見えるのだろうか?それは下層鱗が黒色のためである。Tで述べたように上層鱗の下には下層鱗があり、この重なり合いによって、元来無色であった上層鱗が青く見えるのだと言う。実際、この無色の鱗粉を黒い紙の上にのせるだけで、同様の青色を呈する。これは、空が青く見えるのと同様の「光の散乱」によるものと解釈されている。
チョウの鱗粉の場合、無色の鱗粉が紫や青のような光を多く散乱し、他の波長の長い光は通り抜けて、その向こうにある黒色鱗粉に吸収されてしまうのだと考えられる。
ところで、もし2種類の鱗粉が交互に並んでいなければ、うまく二層構造ができず、その部分は青ではなく黒または「無色」になってしまうので、青色を作り出すためには無色の上層鱗と黒色の下層鱗が交互に並ぶ二層構造が必須条件となる。
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