旧北秋田郡森吉町前田地区 森吉町前田の炭鉱 2012.2.24掲載
   2.27更新
2022.4.6更新

 平成17年3月22日、鷹巣・合川・森吉・阿仁の4町合併により北秋田市となったが、旧森吉町には森吉字湯ノ岱地区の東北無煙炭鉱と森吉字丹瀬地区の奥羽無煙炭鉱の二つの炭鉱があって昭和30年代前半には国の経済成長と共に隆盛を極め、両社の社員と労務者その家族を合わせると炭鉱関係者は千名を超えた。
 特に湯ノ岱地区には東北無煙炭鉱の鉱業所があり、鉱山長屋が建ち並び、町営診療所、映画館、商店、理髪店などもあった。小中学生の数は三百余名もあり、森吉地区には町役場の森吉支所も設置された。

 また丹瀬地区の奥羽無煙炭鉱は索道(鉄索といった)によって、国鉄阿仁合線桂瀬駅前の鉱業所に運ばれ製品化され、貨車に荷積み出された。電気化学工業株式会社(電化)の経営のため、「桂瀬の電化」として有名をはせた。

 その後燃料革命により、国の炭鉱政策によって交付金による閉山を奨励するようになり、東北炭鉱は昭和37年10月25日閉山(買い上げ閉山)。閉山時の生産量は年間26,184d、労務者数132人、能率14.1。

 奥羽無煙炭鉱は昭和44年11月17日閉山(一般閉山交付金対象閉山)。閉山時の生産量は年間34,614d、労務者数114人、能率21.3と記録されている。
(閉山日は労務者解雇日、年間生産量は鉱区ベース。閉山交付金制度交付対象炭鉱一覧より)

 なお東北無煙炭鉱株式会社は昭和46年5月1日西尾リース株式会社に社名を変更、昭和58年12月24日西尾レントオール株式会社(本社:大阪市中央区)と社名を変更した。また電化は電気化学工業株式会社(本社:東京都中央区)として存続しており、秋田市に営業所がある。

東北炭鉱・奥羽無煙炭鉱の地形図
「秋田県における休廃止鉱山」(S.55 秋田県公害課)資料より

文献に見る森吉炭田

 森吉炭田は前田村(森吉町の旧村)字森吉湯ノ沢、丹瀬沢及び七日市村(鷹巣町の旧村)大湯津内沢、小湯津内沢、仙戸石沢等にまたがる鉱区で総坪数四百万坪におよぶもので、明治17年採掘し、同33年9月大日向作太郎氏が七日市村地内の鉱区を採掘して、前田村湯ノ岱沢を支山として開いた。
 同氏は二カ年盛んに採掘して小坂鉱山にコークス代用品として供給していたが、小坂白坂間に索道が開設されるとコークスが他より廉価に供給されるようになって、本炭鉱は経営困難に陥り、廃鉱のやむなきに至った。

 明治40年代旧川西村(現横手市雄物川町)の高安良吉氏が七日市鉱山として経営、同43年に1.7dの石炭を算出している。
 日本産業の振興によって、無煙炭の活用時代となり、大正5年資本金百万円をもって扇田炭砿株式会社を設立し、翌6年には二百万円に増資されて、本店を大阪市、出張所を扇田町に置いて社名を「扇田鉱山」と改め稼業し、17.2dの石炭を算出、その後大正11年まで多少の石炭を産出した。交通不便のため経営困難に陥り、多額の負債を生じて休山にに至った。
 その後経営権は茨城県の高野毅氏を経て秋田市の進藤彦松氏の買い受けとなり、昭和12年7月26日所有権移転登記された。更に昭和13年7月電気化学工業株式会社の手に渡って再興されることとなった。

 電気化学工業は鉱区内の探鉱・採炭事業に着手し、山元から石炭搬出のため、前田坑・丹瀬坑と桂瀬駅前の選鉱所まで総延長17qの索道を架設した。当時、前田坑は1・2・3・本・新坑、丹瀬坑は北・南坑、七日市坑は1・2・3・4・5・本坑の採鉱現場からなっていた。
 昭和22〜25年の従業員数は200人余、年間1.2〜1.7万dの出炭量が記録されている。その後昭和38年まで日産150dの機械選鉱設備と200人台の従業員を維持していた。

 昭和30年代に入ると石炭鉱業合理化臨時措置法が施行され、安価な液体燃料への転換が進み、石炭業界が不況に見舞われ、同40年代に入ると本鉱山も縮小された。
 昭和44年の「秋田県鉱業統計資料」には、本県唯一の石炭鉱山で、埋蔵量・品質も優れていながら石炭鉱業不振のあおりを受け、昭和44年8月閉山した、と記録されている。

参考文献:「北秋の自然誌」、「東北鉱山風土記」、「秋田県鉱山誌」、「秋田鉱山盛衰記」


◎秋田大学鉱山学部資料「無煙炭の性質」(昭和31年10月7日第24回大会講演資料、堀川秀一氏)

          奥羽無煙炭鉱 前田坑 七日市坑   東北前田無煙炭鉱 新二坑
   水 分(%)        4.84    6.44             3.98
   灰 分(%)        10.81   21.91            20.88
   揮発分(%)        6.23    6.01             6.82
   固定炭素(%)       78.12   65.64            68.32
   硫 黄(%)        0.54    ―              0.55
   発熱量(kcal/g)      ―     6097              6140
   燃 料 比         12.5    10.9             10.0
   純炭発熱量          ―     8668             8310
   純炭比重          1.488   ―                ―
   着火温度          508    ―                ―



 ◎奥羽無煙炭鉱概要(電気化学工業株式会社秋田鉱業所)

   事務所…北秋田郡森吉町桂瀬、桂瀬駅の隣り
   炭  鉱…阿仁前田駅下車、小又川上流20qの沢を南端とし、米代川上流小猿部川、
       上流大湯津内沢を北端とし、その中丹瀬沢の範囲で、すべて国有林内にある。

   埋蔵炭量…250万d(水準以上)
   設 備  …選炭、コンプレッサー、シャプナードリル、修理工場、溶接場、旋盤、ボール盤等
   福利施設…合宿所、社宅、特に桂瀬のクラブは完備


桂瀬の電化

桂瀬の電化全景と索道停留所
桂瀬の電化全景と索道停留所

桂瀬の電化事務所と鉱業所
桂瀬駅のホームからの俯瞰、今となっては幻の遺産


阿仁前田駅構内の東北炭鉱鉱業所

東北炭鉱前田鉱業所
写真の中程に石炭積み出し用の引き込み線が見える

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