若勢の天国行き  
10月分  毎月別の話を掲載 11月1日掲載

 

むがし、むがしあっ所(どご)に、若勢(わかぜ)居(え)であったど。

んだども、その若勢ァ年(とし)もえって、おが(あまり)稼(かせ)げねぐなったし、これ、どしたらえがべがど、親父(てで)考えだど。稼げねぐなったんでて、追(ぼ)ってやるごどもできねェし、んだがらって殺せば人(ふと)殺しだと喋(しゃべ)らえるしど、たいした思案したど。そごで、

「ん、えごどある。騙(だま)しかけで、死なひらえにせばえやった(死ぬようにすればいいのだ)」ど、思ったど。

「菊蔵ァ、菊蔵ァ。んが(おまえ)天さのっぼて、仙人になったぐ(なりたく)ねが」ど、喋ったば、菊蔵ァ

「んにゃ、仙人になってェな」

「天さのぼればしゃ、なんも死ぬごどもねし、えっちも(いつも)んめぇもの食って、遊(あし)んでえねぇし、えがべ」

「んにゃ、行きてぇな。なんとか、天さやってけれじゃ」って 頼んだど。

「んだな、したら高げェ杉の木さ登ってしゃな、西の国のご仙人にならせたまえやー、西の国のご仙人にならせたまえやー、西の国のご仙人にならせたまえやーって、三べん唱えで、眼(まなぐ)ふぐって(瞑って)杉の木がら 、ぶうーんと跳(は)ねればしゃ、

五色(ごしき)の雲ァ、舟コ持ってきてしゃ、ずうっと、んがどご連(つ)れてえぐったでェ」

「ええな、そんだば早ぐ行(え)きてェ」ど、菊蔵ァ喋ったど。

「したらしゃ、お宮の処(どこ)に高げェ杉の木あるんて、あれさ登って跳ねろじゃ」

「んん、ええ、ご仙人になるったば、どっからでも跳ねる」って喋ったど。

 次の日こんだ、お宮の処(どこ) の杉の根元さ、親父(てで)と若勢(わかぜ)ァ行ったど。若勢親父に、びんと眼(まなぐ)さ手拭い結(むし)んでもらって、登ったど。ずうっと登って行った若勢ァ、「こっからな?」ってせば、親父下に居(え)で、「まだ、まだ、まだァ」と喋るど。

若勢ァまだ、ずうっと杉の梢(うら)まで登ってがら、「こっからな」ってせば、親父ァ「おーい、そごだ、そごだ。そごがら西の国のご仙人にならせたまえやーって、三べん唱えで、跳ねろじゃ」ったど。若勢ァ三べん唱えで、杉の梢(うら)がらどんと跳ねだば、西の方がら五色の雲ァほんとに舟コ持ってきて、若勢どこ乗せで行ったど
それ見だ親父ァどでん(びっくり)して、

「んにゃ、んにゃ、ほんとに行(え)ったじゃ。んだども菊蔵行ぐくりゃだば、俺だば直ぐに行くにえじゃ。んにゃ、こんだ俺ァ、西の国さ行くじゃ」ど思ったど。こんだ(そして)親父ァ、

「俺ァ、こんだ、西の国の仙人になるんてが」ど、触れまわして、ニワトリ殺(おろ)したりして、たいした飲み食いしたど。

 それがら三日してがら、「今日俺ァ、西の国さ行くんてが、お宮の杉の下さ集まれ」ど、村中触れで、人(ふと)どご集めたど。

杉の下さ集まった人どァ、太鼓持って来て、ドンドン鳴らしたり、酒飲みしたりして、たいした騒いだど。

 親父ァ、ゆっくり飲んでがら、親戚(おやこ)だの村の人だのに別れて、こんだ杉の木さ登って行ったずおんしゃ。下に居た親戚(おやこ)共(ど) まだ、なんとがして西の国の仙人ならせでけれって、皆がら手合(あ)せで拝んだど。親父ァ、ずうっと杉の梢(うら)まで登ってがら、

「西の国のご仙人にならせたまえやー、西の国のご仙人にならせたまえやー、西の国のご仙人にならせたまえやー。さようなら」って、ぶんと跳ねたば、五色の雲ァなんも舟コ持ってこねで、わたっと下の石の上さ落ちで、その親父ァ死んだずおんなんス。

 仙人だば化けた(どころか)仙人から九百九十六抜げで、死人になったどしゃ。どんとはれ。    阿仁の昔話より


 

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死人になった親父