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 山鳩になった子供 12月1日掲載

 
 

 むがし(昔)に、かがァ(女房)に早ぐ死なれでしまって、てで(父親)ふとり(一人)で、わらし(子供)一人あづかっ(育)てだわげ(訳)だなんス。したどもこんだ(そうしているうちに)、あんまりてで(父親)ばかりしてかせ(稼)んだせいだが、病気になってしまって、腰立たねぐなってしまったど(そうだ)。
 それがらこんだ(そうこうして)わらし(子供)相手に暮らしてらどごろが、あるおやこ(親類)のふと(人)がァ、「んにゃ、俺ァえま(今)餅(もぢ)搗(つ)だども、餅(もぢ)作(こしゃ)るもならねし、そのまま持って来たんて、汁コ(汁物)さでも入(ひ)で、食ってけれじゃ」って、持ってきてけだなァ。
 「あえ、あえ、ありがでェな」って、そしてまずその人(ふと)ァ、餅ば置いで行(え)ったども、搗きだで(搗いたばかりの)餅だたえに(餅なので)、どして手コつこんで食う訳(わげ)にもなんねェし、こんだわらし(子供)コどこ(を)、遣ってやったわげだァ。
 「うしろの畑さ行って、菜っ葉採って来いじゃ、餅入(ひ)で、食うべし。」ったきゃ、「ん!」(はい)って、こんだ出はって(出かけて)行ったども、ながなが来ねど(帰らなかったそうだ)。「はァて、どこさ行ったべ(行ったのかな)?」ど、思ってだば(いたら)、行ぐうぢに(途中で)忘れでしまってはァ、そのなり(まま)遊んでら訳(わげ)だなァ。
 「んにゃ、俺ァこういう体になってしまったて、歩(あ)げね(歩けない)し、うしろまで行(え)って採って来(く)んにええ菜っ葉も、採って来(こ)えねぐ(来れなく)なったし、なんともなんねシな。餅食ってしな(食いたいな)」ど思って、餅さ手突っ込んで食ったわげだァ。食ったはえたて(いいけど)、それでねても(なくても)身体窶(やづ)れてしまってるものさ、搗きだで(搗きたて)の餅食ったどごで。喉さはばげで(つかえて)、にっちもさっちも動(えの)がねぐなってしまって、そのなり(そのまま)その人(ふと)死んでしまったわげ(訳)だァ。
 さァさァさ、死んだという話聞(き)で、部落(集落)のふとど(人達)皆来てけで(くれて)、死んでしまったがらって、葬式出したど。
 したどもしゃ(だけども)、「んにゃ、俺ァ悪(わり)がったなァ。粉(コッコ)つけで持って来いばえがったやず(よかったのに)、それやるず(やるのが)忙しくて、粉もつけねで、搗きだでの餅(もぢ)持って来て、俺ァ殺したえんたもんだじゃ(殺したようなものだ)」って、泣ぐわげだァ。それ聞でらずおんしゃ、わらしもまだ(それを子供がそばで聞いていたそうだ)。
 「んにゃ(えっ!)、そせば(それじゃ)、粉(コッコ)つければ、死なねがったべがァ(死ななかったのですか?)」って、聞いだば、「ん(うん)、粉つければ死なねやず。俺ァ粉(コッコ)もつけねで搗きだでの餅(もぢ)持って来て、殺してしまったじゃ」って、その人(ふと)もオイオイど泣いだずおんな。
 「んだてな(そうだったのか)、粉(コッコ)つければえがったやずな(よったのか)」ってごどで(という訳で)、そのわらし(子供)もこんだ、あば(母親)も死んでしまったし、てで(父親)も死んでしまったし、どうにもならねしって、皆でしゃ、回りっこして(代わる代わる)そのわらし(子供)あづが(育)う相談したど。
 んだども、その晩(ばんげ)のうぢ(内)にはァ、そのわらしァ、居(え)ねぐなってしまったど。どごさ行(え)ったべが?って、探(た)ねで歩(あ)ったばて(歩いたけど)、居(え)ねがったど。
 したば(そしたら)、山の方で「でで(父親)粉()食(でで(父親)粉()食(」どいう鳥、鳴ぐようになったど。したばそれ、そのわらし(子供)がはァ、鳥なってしまって、山に居(え)るえに(ように)なったのだど。それが山鳩だどいう話だァ。  (阿仁の昔話より)

 

 

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